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「も……ダメ……」



ついに足を止めてしまったのは、それから幾ばくもしない内だった。

急がなきゃならないのは分かっているが、倒れてしまっては本末転倒である。



「大丈夫ですか?」

「……ダメ……でも、あとで……追うから」



代わりにマルチナさんの手を引いてあげて。

そう言おうとした私を見越したのか何なのか。

ゼロスは「失礼」と一言断ると、私をひょいと抱き上げた。

そして、そのまま山道を駆け登る。

…………って。



「……ちょ、もしもしゼロスさんっ!?」

「喋ると舌噛みますよ」

「いや、でもっ」



俗に言うお姫様抱っこをされ、私の心臓は早鐘のごとく高鳴る。



「それから、しっかり掴まってて下さいね。落ちちゃいますから。」



いや、掴まるとか……私に死ねと?

ゼロスは私を殺す気なのか?

思う内にもガクンと揺れ、私は咄嗟にゼロスの首に抱き着いた。

そして後悔する。

お姫様抱っこをされた状態で、相手の首に抱き着くとどうなるか。

当然、自分の視線は進行方向とは逆───つまりは、後ろを向くことになる。

そして今、私達の後ろにはマルチナさんがいる。

ここまで言えば分るだろう。

そう、私はマルチナさんに物凄い形相で睨まれていた。



「あ、あのっ……ココまでしてもらうのはちょっと……」

「恥ずかしいなら目を瞑ってて下さい」

「いえ、そうじゃなく……」

「あぁ、体重の事ならお気になさらずとも、大丈夫ですよ?」

「………………いや、そうでもなく」



私の意思が伝わらず、いっそ捨て置いてくれと言おうかと思った、その瞬間。



「と、どうやら……楽しんでる場合じゃ無いみたいですね」



走るスピードを落としたゼロスに、私は訝しげながら彼の顔を見た。

楽しんでたのか。

人が、呪われるかもしれないこの状況を。

何か文句の一つも言ってやろうかと思ったが、地面にそっと降ろされたので、ひとまずそれは飲み込んでおく。

見れば、私が降ろされた理由は一目瞭然だった。

道が途切れており、リナさんが立ち止まっていたのだ。

一応、少し離れたところに道は続いているのだが、その間には深い崖が展開され、崖下には川が流れている。

道が続いているという事は、おそらく橋が架かっていたのだろうが……。

魔族が足止めの為にやったのか、それとも災害か何かで壊れてしまったのか。

兎にも角にも、ココを通過するのは、ほぼ不可能と思われた。



「おやおや、これは困ったことになりましたねぇ」

「そんな事っ! ちっとも困ってない顔でサラッと言うなぁっ!!」

「……はい」



リナさんに怒られ、ゼロスは一歩後ずさる。

そこへ更に畳み掛ける彼女。



「何とかしてよっ!」

「……そう言われましても」

「アンタがタダ者じゃ無い事くらい分かってんだからねっ!? 何かやれ何かっ!!」

「まぁまぁ落ち着いて」

「これが落ち着いていられるかぁっ!!」



一体その元気はどこからやって来るのか……。

ようやく息が整いつつある私の前で、リナさんは怒鳴り散らす。



「ったく、セイルーンまで後もう少しなのに……」

「……迂回してたら間に合いませんよね」



となると、橋の代わりになる様な物を作るか、それとも……。



「リナッ! それにそこの白いのッ!」



考えを中断させたのは、後ろから掛かった声だった。

振り向けば、肩で息をつくマルチナさんの姿。

と言うか……『そこの白いの』って私の事?

マルチナさんに認識されたのは良いが、これまた随分と中途半端な認め方である。

まぁ、その認め方も、敵視という形ではあるのだろうけど。

その証拠に、彼女は殺意にも似た意思を持って、私達へと襲い来た。



「覚悟おぉーーーっ!!」



手を突きだし、コチラに向かって走り来る彼女。

が、声をかけなきゃ成功したであろうそれも、私達が気付いた時点で失敗に終わっている。

私達は慌てず騒がず一歩後ろに下がり、それに対応できなかったマルチナさんは私達の前を通り過ぎていった。

彼女の先には崖───。

マルチナさんは目に涙を浮かべながら、川の流れる崖下へと落ちていった。



「おのれーっ!! リナぁーっ!! 白いのぉー!!」

「………………」

「……あらら、流れて行っちゃいましたねぇ」

「そうかっ!」

「り、リナさん?」



流れ行くマルチナさんを見て、急に明るい声を上げる彼女。

…………なんか、すごく嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

いや、気のせいであってほしい。

心から……心から、そう願った。

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