インボウ(1/10)

『この男は預かった。助けたければ我々の前からけして逃げるなよ』



そう言い残し、カンヅェルは私達の前から消えた……───。

言った本人が逃げてどーする。

とも思うが、異空間での戦いでガウリイさん達が怪我を負っていたのも、また事実。

マゼンダとかいう、もう一人の魔族もいつの間にか姿を消しており、態勢を整えるのが先と考えた私達は、あてがわれた部屋の一室で傷の手当てをする事になった。

───そんな中。



「おい、リナ。さっき言ってた事は本当か?」

「奴らがあたしを狙ってるって事?」

「あぁ」



ゼルガディスさんは一つ頷き、リナさんに答えを求めた。

それに対し、彼女は真剣な面持ちでそれを肯定する。



「どうやら間違いないわ。カンヅェルの口ぶりといい、あたしの命を狙って魔族が襲ってきたりしたところを見ると」

「お前、魔族に色々恨み買ってるからなぁ」

「色々って、あのセイグラムとか言う魔族とかですか?」



ガウリイさんの呟きに尋ねると、何故か三人は顔を見合わせる。



「あぁ、ユウには言ってなかったな……」

「はい?」

「まぁ、言ってどーなるもんでもなかったしね」

「…………はぁ」



彼女達の言わんとしている事がわからず、私は曖昧な相槌を打つ。

するとガウリイさんがあっさりと。

それはそれは、清々しいまでにあっさりと。



「コイツ、シャブなんとかって魔族の親玉倒してんだよ」



と、リナさんを指し示した。



「…………………………………………は?」

「ま、当然の反応だな」

「その頃に出会ったのよね、あたし達。あ、アメリアは少し後だけど」

「お前には相当ふっかけられたっけな」

「あははははは♪ まあ、そんな事もあったっけねぇ」



パタパタと楽しそうに手を振るリナさん。

思い出話しに花が咲いている。



「……て、いやいやいや。魔族の親玉って魔王って事ですよね?」

「だな」

「魔王って、あの有名な魔王シャブラニグドゥ?」

「7分の1だけどね」

「………………」



簡単に言ってのけるリナさんに、私は言葉を失った。

スゴいとは思っていたけど、まさかこれ程までとは……。



「ま、そんな訳で魔族には色々恨まれてるんだろうけど……でも、ただそれだけで狙ってるとも思えないのよねぇ」

「どういう事だ?」

「あたしにもさっぱり分かんないけど、カンヅェル達はハッキリと目的があって動いてるみたいだわ。そして、それにあたしが絡んでる」



ガウリイさんの治療を終えた彼女は、ソファーに座り、そう説明する。



「どっちにしろ戦いは避けられないか」

「次こそは遅れはとらん」



そんなやり取りをしているところに、バタンッと、勢いよく扉を開けて入ってきたのは、アメリアさんだった。



「リナさん! 大変ですっ!」

「どうしたのっ!? クリストファの様子探ってきた?」



先に治療の済んでいたアメリアさんには、この後クリストファさんがどう動くのか、様子見してもらっていたのだが……。

───しかし。



「それどころじゃありません! クリストファおじさんが王位継承権を放棄したんですっ!!」

「何だとっ!?」

「それってフィルさんに万が一の事があっても、跡を継が無いってことだろ?」

「そうなんです。自分が雇った魔道士が引き起こした事件の責任をとるって……」

「どういう事だ? この事件の裏にいるのはクリストファじゃないって事なのか?」

「……やっぱり何か」



まだ裏に何かがあるのだろうか。

私達が見過ごしてる何かが……。



「ん?」

「どうかした? ユウ」

「……おかしくありませんか?」

「何が?」



先日、手紙で呼び出されたリナさんがアルフレッドさんから聞いたのは、彼の父親───つまりクリストファさんが首謀者だという事だったらしい。

もしそれが本当なら、王位継承権を放棄するとは考えにくい。

暗殺騒ぎは、王位を欲して起きた事件のはずなのだから。



「そうね」

「もしかしたら……」

「とにかく、もう一回アルフレッドに話を聞いてみる必要がありそうね」



リナさんの言葉に、私達はコクンと頷いた。

<<>>
[ 戻る ]


ALICE+