「あー……とんでもないと言うか……飛んでますね……コレ」
「って、しみじみしてる場合じゃ無いでしょうがっ! どうすんのよコレッ!?」
「いや……どうすると言われましても……」
目の前に広がる光景に、私はただただ唖然としていた。
と言うのも、この屋敷と更に周りの土地が丸々浮いてしまっているのだ。
眼下にはセイルーンの街並みが広がっていて、それはさながら空中庭園のよう。
おそらくカンヅェル達の力が働いているのだろうが……。
なんと言うか……。
「力の無駄遣いですよね」
「ツッコミどころはそこな訳?」
「ふっ……リナ=インバース。貴様が容易く逃げられぬ様にしたまでの事」
後ろから悠然と追い付いてきたカンヅェルは、リナさんを見ながらそう述べた。
やはり彼らの目的はリナさん……。
「貴様がここを出られるのは死体となった時か……それとも」
カンヅェルはそこで一旦区切ると、勿体つけたように間を置き、
「我らの仲間になった時だ」
と、それこそとんでもない事を口にした。
その言葉に、ガウリイさん達から次々に驚きの声が上がる。
「な、何だとっ!?」
「リナをッ!?」
「仲間にッ!?」
そして彼らは慌てて手を振り、キッパリと言い切った。
『それだけは止めといた方が良いっ!!』
───と。
見事に揃う3人の意見。
当のリナさんは、あまりの事にコケていた。
まぁ、私もその意見には賛成だけど、後が怖いから黙っていよう。
「アンタ達ねぇッ!?」
「貴様がこの地にやって来た頃」
「……とことんマイペースですよね、魔族って」
こちらのゴタゴタお構い無しに話続けるカンヅェル。
しかし次の瞬間。
カンヅェルは更に爆弾発言を投下した。
「我らが主、魔竜王ガーヴ様より、貴様を抹殺せよと命令が下ったのだ」
「ま、魔竜王ガーヴっ!?」
「何だとッ!?」
「そんなっ!?」
「あ、私お洗濯干したままでした」
「嘘言えぇぇーーーっ!!」
あはは……と乾いた笑みを浮かべ、回れ右。
そこにすかさずリナさんの手が伸びてきて、フードをむんずと掴まれ、逃亡を阻止される。
そんな最中、事態を理解してない人物が一人。
「何なんだ? それ」
「くらげーーーっ!! もうっ! アンタはそんな事も知らないのッ!?」
魔竜王と言う通り名も何のその。
ガウリイさんの一言に、リナさんは再度絶叫した。
「知らなきゃまずいのか?」
「あーのーねー……この世界を統べる魔王、シャブラニグドゥが生み出した五人の腹心の部下の一人! それが魔竜王ガーヴっ!!」
「ってお前、そんな大物に狙われてんのかっ!?」
「冗談じゃないわよっ! 何であたしがッ!?」
事の重大さを理解したガウリイさんの言葉に、リナさんは納得いかないと振り向いた。
戸惑う私達に、カンヅェルは事の経緯を話始める。
「初めは命じられたまま貴様を殺すつもりだった……だが、あの呪文を見て少し気が変わったのさ」
「あの呪文……? 神滅斬!」
「あれほどの呪文が使えるのであれば、我らの戦力になる」
確かに。
あの術で斬れないものは、その力の源である『彼女』くらいのものだろう。
「ふ……おあいにく様。あたしは魔族なんかと手を組むつもりは、これっぽっちも無いわッ!!」
「偉い! 良く言った!!」
「そうですよリナさん! 悪に魂を売り渡してはいけませんッ!!」
リナさんの宣言に、ガウリイさんとアメリアさんが喜びの声を上げる。
───だが、あちらとしてもその答えは予測済みだったのだろう。
「だろうな。だが、これと引き換えならどうだ?」
カンヅェルが笑みを深くした、その瞬間。
彼らの後ろに現れたのは……───。
「フィルさんッ!?」
「父さんっ!!」
王宮で拐われたフィリオネルさん、その人だった。
「この為にフィル王子を拐ったのか!」
「卑怯だぞっ!!」
「それだけ我々は強い力を求めていると言うことだ」
ゼルガディスさんとガウリイさんに非難されるが、さすが魔族。
それすらも糧にしているのか、カンヅェルは余裕の笑みを浮かべていた。
───しかし。
一体、何の目的で魔族が力を集めているのだろうか?
彼らにとっては取るに足らない存在。
そう認識している人間の力を借りてまで───何を?
思考を巡らすその内に、隣ではリナさんがしたり顔でカンヅェルに問う。
「成る程ね。それでアトラスの魔道士協会や、セイルーンの軍隊を支配下に置こうとしたって訳ね? ……アンタ達の本当の狙いは何ッ!?」
「っく、おしゃべりが過ぎたようだな」
強気なリナさんに対し、カンヅェルは不愉快そうに顔を歪めた。
そして、それを振り払うかのように、嫌な二択を突きつけてくる。
「さぁ、リナ=インバースよ! 我々に従うか、それとも……あの男を見捨てるか!」
「っ……!!」
「リナさん……」
フィリオネルさんを殺される訳にはいかない。
かと言って魔族に手を貸す訳にも……。
迷いを見せるリナさん。
それをアメリアさんは固唾を呑んで見守っていた。
「決心がつかぬ様だな。ならばあの男を痛い目に合わせてみるか」
カンヅェルはこの状況を楽しむように嗤うと手に魔力球を生み出し、答える猶予も与えぬ内にそれを解き放つ。
辺りに嫌でも緊張が走った。
「っ!!!?」
「父さんっ!!」
放たれた攻撃は、フィリオネルさんへと突き進み───けれど。
当たると思った、その瞬間。
バシュ……!!
という音を立て、魔力球は跡形もなく消え去った。
「……ぇ?」
見ればフィリオネルさんの周りには、薄い膜が張ってある。
いつの間にか現れ、いつの間にか姿を消す。
───そんな彼の黒き魔力障壁が。
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