「それじゃあ、行きましょうか」
「あ、ちょっと待って」
フィリオネルさんを担ぎ、コチラへと手を差し出してくれたゼロスに待ったをかけると、彼はきょとんと首を傾げた。
「?」
「……もう一人お願い」
「………………」
私の言わんとしている事に直ぐ気づき、ゼロスは眉を寄せる。
その表情から、『何を考えてるんです』という意思がありありと伝わるが、意見を変える気は無い。
もう一度「お願い」と、彼の瞳を見つめれば、ゼロスは分からないと言うように首を振った。
「ユウさんが魔法を使えなくなったのは誰の所為か分かってます?」
「マゼンダっていう魔族でしょう?」
「………………分かってて言ってるでしょう、ユウさん」
…………。
「何の事かな」
「その原因を作ったのは紛れもなく……」
「だって、一人は寂しいでしょ?」
「…………」
ゼロスの言葉を遮り、そう主張すれば彼の口は閉じられた。
私は視線を、屋敷の中へと向けながら更に続ける。
「……それに、眠るのは……やっぱり自分の家が落ち着くでしょう?」
だからお願い。
そう希望を込めてゼロスを見ると、彼は呆れたように溜め息をついた。
……やっぱり。
家に帰してあげたいだなんて、おこがましいのかな。
ましてや自分で出来ない事を頼んでいるのだ。
ゼロスが呆れるのも無理はない。
無力な自分が歯痒く、知らず知らずの内に目線が下がる。
そんな私に、聞こえぬほどの声が降ってきた。
顔を上げれば、「……仕方ありませんねぇ」と苦く笑う彼の姿。
「……ぇ?」
「引き受けましょう、その願い」
「良いの?」
「他でもないユウさんの頼みですからね」
その言葉に、私は嬉しさから微笑んだ。
「ありがとう」
「その代わり」
「?」
「貸し、一つですからね」
「ん」
ピッと人差し指を立てたゼロスの顔には、優しい笑みが浮かんでいる。
私は頷き、それを確認して屋敷へと歩を進める彼の後ろ姿に、もう一度「ありがとう」と呟いた。
ALICE+