「うぬぬ……一体上では何が起こっておるのだっ!?」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ」
フィリオネルさんがジャンプに失敗してから、しばし。
私達はする事も無く、小高い丘で、ただただ空を見上げていた。
何も出来ないことに対し、やきもきするフィリオネルさん。
一方、ゼロスは木に寄りかかり、そんなフィリオネルさんへ気休めの言葉をかけた。
「あの人達の事ですから、これくらいの事は平気ですって」
そしてその後にポツリと続く、意味ありげな言葉。
「それに……これくらいは自分達でケリをつけてもらわないと、こちらも困りますからねぇ」
「うん? 何か言ったか?」
「い、いえ。何もっ」
「ホントかのぉ?」
「は、はいっ!」
疑いの眼差しで見られ、ゼロスは慌てて頷く。
どうやら、フィリオネルさんに対して少なからず苦手意識を持っているようだが……。
「……ゼロス?」
そんな彼の名を、私はフィリオネルさんに聞こえないように呼んだ。
フィリオネルさんにはハッキリ聞こえていなかったみたいだけど、隣に腰かけていた私には、確かに彼の呟きが聞こえたのだ。
その真意を問おうと彼を見ると、ゼロスは黙ったまま人差し指を口に押し当て、ニッコリと微笑む。
「………………」
話す気は無い。
無言でそう告げられ、私は小さく溜め息を吐いた。
まったく、何を考えているんだか。
そう思うのに、前ほどの疑念は無くて。
ついつい流されそうになる。
けれど相手はゼロスだ。
疑問を放っておいて、面倒に巻き込まれるのは御免である。
私は再度彼へ問いかける為に、口を開き───その瞬間。
遠くから聞き覚えのある声がして、私は言葉を飲み込んだ。
「ゼロス様っ!」
「えっ!? そ、その声は……」
「ゼロス様ぁ〜っ!」
声のした方を見てみれば、ゼロスへと駆け寄るマルチナさんの姿。
両手に革袋を持ち、瞳を輝かせながら走る彼女にはゼロスしか見えていない。
故に、足許を見ていなかった彼女はものの見事に水溜まりに足を取られ、すっ転んだ。
「ぐぇ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「ゼロス様! 離れ離れになってしまった時はどうなるかと思いましたわ。でもこうして世界の征服の為の資金も……あぁっ!?」
私の声を無視し、マルチナさんはその場に身を起こすと革袋を掲げてみせる。
しかし、その革袋には穴があいており、中身が入っていなかった。
「どこ行っちゃったのっ!?」
それに気付いた彼女は慌ててバシャッバシャッと水溜まりを手探りするが……。
おそらく走っている間に落としてきたであろうお金は、もちろん見つからない。
その様子を見たゼロスは呆れたように、やれやれと溜め息を吐いたのだった。
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