「この山の稜線が貴婦人の顔だったとはな」
緩やかな山道を登りながら、ゼルガディスさんが感心したように呟く。
ようやく見つけた貴婦人の横顔は、山の峰と峰を結んで続くその線の事だった。
言われて見れば、人の横顔に見えなくもない。
「それで、今はドコに向かってるんですか?」
「目指すは貴婦人の首筋よ。そこから次の目印が見つかるはずなんだけど……あぁ、もう! どこなのよ!?」
リナさんがイライラと地図を見ていた、その矢先。
「一体どこあるネ……」
「……うーん」
前から聞こえてきた、二つの知らぬ声。
ふと顔を上げると、そこには二つの同じ顔が並んでいた。
紫の長い髪を下したその頭の上には、二つのおだんご。
そして赤いチャイナ服。
同じ容姿に同じ出で立ちの二人が、こちらを見ている。
どうやら向こうも私達に気付いているようだが、問題はお互いに持っている地図だった。
「……貴婦人の横顔……」
リナさんの呟きは相手にも聞こえた様で、手にした地図とこちらを交互に見てから双子の片割れが、独り言のように口を開く。
「……貴婦人の……横顔?」
「う゛……その首筋?」
「古代王朝の……遺跡?」
「その奥に隠された……呪文の書っ!?」
お互いに地図のヒントを読み上げるリナさんと、チャイナ服の少女。
それは地図が全く同じことを示しており、すなわちそれは、彼女達がライバルであると言うことを物語っていた。
その事に気付いたリナさんは、怒りの眼差しを向け、彼女達に宣言する。
「一体どこから嗅ぎ付けたかは知らないけど、呪文書はあたしの物よっ!!」
しかし、そうと言われて相手も黙ってはいない。
「そうはいかないネ! アタシ達が手に入れてこそ価値ある物ネっ!!」
「お姉様と二人、ここまで苦労して来たのネ!」
「苦労して来たのねはコッチだって同じなのねっ!」
……うつってます、リナさん。
だけど彼女はそんな事などお構い無しに、更に畳み掛ける。
「元手だってかかってんだからねっ!」
「こっちだってかかってるネ! この古びた地図一枚に、五千も払ってしまったネっ!!」
それを聞いたリナさんは、衝撃のあまり言葉を失った。
リナさんがボーデンに払った金額は一万。
おそらくその事にショックを受けたのだろう。
しかし、それも束の間。
刹那後には、彼女達に食って掛かっている。
「五千っ!? どこでそんな安く手に入れたって言うのよっ!?」
「教えるつもりなんて無いネっ!」
「あんた達は諦めて引き返すネっ!」
「ふんっ! 引き返すのはそっちの方よっ!!」
既に喧嘩腰の両者。
一発触発とはこのことを言うのだろう。
「このミミと」
「ネネに逆らおうとは」
『良い度胸ネっ!』
声をハモらせ、身構える双子達。
それに対しリナさんは、「やってやろうじゃないのよっ!!」と腕を振り上げた。
「どうする?」
「くだらん戦いだ。ほっとけ」
「そうだな。じゃ、そういう事でリナ」
その様子を見ていたガウリイさんは、ゼルガディスさんの言葉に同意し笑顔で手を振る。
それを聞いたアメリアさんが、困ったようにリナさんを見た。
「だそうです」
「何がそーいう事なのよっ!?」
ガウリイさん達の「後は任せた」という態度にリナさんは怒鳴り───と、次の瞬間。
「今ネ! ほわちゃーーーっ!!」
「っ!?」
ミミと名乗った少女が、コチラの隙を逃さず、飛び道具を投げ付けてきた。
リナさんは間一髪それを避けると、すぐに逆上しだす。
「コラーッ! いきなり何をするっ!!」
「よそ見しているそっちが悪いネ!」
その言葉に、正義の使者のアメリアさんは近くの岩へとジャンプし、ビシッと指を突きつけた。
「卑怯な手段を労する者、人はそれを悪と呼ぶっ!」
『なんネ? あいつ……』
「悪の手先と落ちたる者には正義の……」
訝る彼女達を無視し、アメリアさんは再びジャンプし、ネネさんの前へ着地する。
その瞬間。
「うるさいっ!」
ネネさんの平手がアメリアさんの頬を打った。
パチンッ!
と高い音が響き、アメリアさんはゆっくりとネネさんを見据えると三再び空へと舞い、
「鉄槌下すのみーーーっ!」
声高らかに叫び、拳を振り上げる彼女。
それを合図に、戦いの火蓋は切られた。
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