「…………なんでパーを出しちゃったんだろう」
あそこでパーさえ出さなければ……。
「いい加減諦めなさい、ユウ」
深い溜め息を吐いた私を、リナさんが叱咤する。
祭壇の後ろで衣装に着替えながら。
そう、私は負けたのだ。
チョキを出したアメリアさんに。
パーで。
……まぁ、今更ぐちぐち言ってても仕方ない。
私は吹っ切るように再度溜め息をつき、そして衣装へと袖を通した。
どうやら基本色はリナさんがピンクで、私がブルーらしい。
胸元のリボンにミニスカート、触角のような頭飾りにチョーカー、ロング手袋、パンプス。
そして束の上にハートの付いたステッキが青で統一され、それ以外の部分が白。
難点を言うとすれば、背中が腰まで開いる点だろうか。
前は胸元までしか無いし。
「……うーん。やっぱりアメリアさんの方が可愛く着こなせたと思うんですけど」
「んな事はどーでも良いのよ! いい? これはチャンスよ? 聖なる呪文がどんな物なのか試せるんだから」
「……まぁ、そうなんですけど。でもコレ、何か違うような気がしませんか?」
「何言ってんのよ! この衣装にも何か意味があんのよ、きっと!」
そうかなぁ……?
何かとんでもない方向に向かってる気もするけど。
しかし。
「さ、行くわよ。ユウ」
「……はぁ」
一人意気込むリナさんにそれ以上の反論も出来ず、私は仕方なく祭壇へと上がる。
まぁ、ここまで来たら引き返すことは出来ないだろう。
「わぁっ! やっぱり似合いますよ、ユウさん!」
「……ありがとうございます」
祭壇の上で待っていたアメリアさんに称賛の言葉を貰い、私は苦笑を浮かべた。
と言うのも、この場に居た全員がアメリアさんの声に振り向き、注目を集める羽目になってしまったのだ。
人々の目に晒され、隣に居たリナさんの顔が真っ赤に染まる。
「あぁっ!? コラっ! コッチ見るなぁっ!!」
……あぁ。
何だかんだ言って、リナさん恥ずかしがっていたのか。
という事は、先ほどの言葉は私に言ったというより、自分に言い聞かせていたのだろうか?
「見るなアッチ向け、見るなぁっ!」
……まぁ、それはそれとして。
照れるリナさんは可愛かったが、そうも言ってられない。
立っていても呪文の効果は得られないのだから。
「リナさん、落ち着いて。いきますよ」
そう彼女に声を掛け、有無を言わさず呪文の詠唱を開始した。
ステッキを構え、声を揃えて。
『恋に恋する 女の子には 眩し過ぎるの マイダーリン』
「……で、次は何なのよっ!?」
羞恥からか、後ろの柩に隠れたゼルガディスさんに、八つ当たり気味に尋ねるリナさん。
あまりにも詠唱が長く、身振り手振りがいる為に、後ろからゼルガディスさんにサポートしてもらう事になったのだ。
「ちょっと待ってくれ……キラキラルージュ、ピンクのピーチ……」
『キラキラルージュ ピンクのピーチ』
「あぁっ!? アレはアレはぁ!?」
「それアタシ達のネ!」
祭壇の下ではミミさんとネネさんが騒いでいるが、今の私達はそれどころではない。
呪文書を見ながら、言葉と身振りを再現する彼にならい、それを繰り返す。
「届いて欲しいの乙女の祈り」
『届いて欲しいの乙女の祈り』
「夜空に浮かぶ銀の小舟 好きと嫌いの 波間に揺れる……くそ、何だっておれがこんな真似を……」
『夜空に浮かぶ銀の小舟 好きと嫌いの 波間に揺れる』
呪文の合間に呟かれたゼルガディスさんの言葉。
それに対し、リナさんは顔を赤くしながら振り向き、小声で抗議する。
「こんな衣装着ないで済むだけマシでしょ!? こっちは死ぬ程恥ずかしいんだからっ!!」
「いいんですよ? 今から交代しても」
にっこり微笑みそう告げれば、彼は一瞬言葉を失い、
「…………小さな胸をキュンキュン焦がしぃっ」
あ、開き直った。
それに続き私達も詠唱を再開させる。
『小さな胸を キュンキュン焦がし』
「確かに小さいが……」
『心は飛ぶの 貴方のもとに お願い届いて 乙女の願い 全部あげちゃう無垢なわたし』
『綺麗じゃ無いネ……』
「黙らっしゃいっ!!」
詠唱するたび入る突っ込みに、リナさんがついに怒りを爆発させた。
そうこうしている内に、どこからともなく音楽が流れ、祭壇の上には光が舞い始める。
───そして。
最後まで呪文を紡錘いだ頃には、辺りには神々しい光と花びらが舞っていた。
「………で?」
音が止み、光も消えてしまった後。
リナさんは肩を竦め、私を見た。
しかし、状況が掴めないのは私も同じで、頬を掻きつつ額に汗する。
「で……と言われましても……別に今ので自分が変わった様には思えませんし」
「まさかっ!? 今ので終わりって訳じゃないでしょーねっ!?」
「……終わりなんじゃないですか」
「他の歌もあるが試してみるか?」
後ろに居たゼルガディスさんが、呪文書を見せながら言うが……。
「冗談じゃないわよっ! もぉ嫌ーーーっ!! なぁにが聖なる加護を授かる究極呪文よーーーっ!!」
「お、落ち着いてくださいリナさん」
暴れだすリナさんを宥め、とその時。
祭壇の下で見ていたミミさんの言葉が耳に届いた。
「究極呪文なんかじゃないネ」
「ぇ?」
「それ、失われたお祭りの踊り」
聞き返す私に、今度はネネさんが答える。
その表情は呆れてるとしか表現できなかった。
と言うか……お祭りの踊りって。
「古代の神に捧げる歌と踊りネ」
「聖なる輝きと旋律を導くものネ」
……という事は。
もしかしなくても踊り損?
それを聞いた仮面魔族が、笑い声を上げる。
「ぬはははっ! 全く、何をし始めるかと思えば愚かな話よ」
隣ではうつ向き、肩を震わせながらブツブツ呟いているリナさん。
余程、腹に据えかねたのだろう。
呟いてる言葉は正真正銘究極魔法、『竜破斬』の呪文だったりする。
「おいリナ…………おい、まさかっ!?」
気付いたゼルガディスさんが止めようとするが、もはや遅い。
彼女の呪文は唱え終わり、
「ギリギリてっぺん来たーーーっ! 竜破斬ーーーっ!!!!」
かくして。
一つの出来事は終わりを告げたのだった。
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