宿に着いたのが遅かった為か、それとも単に寂れているのか……。
私達の他に客はなく、静かな部屋には、ジジジ……とロウソクが燃える音がわずかに聞こえるのみ。
───そんな中。
頼んだ夕食が来るまでの間に話始めたのは、ゼロス。
「人と心を通わす術を知らない彼は、ただひたすらに念じ続けました───アンと一緒に暮らしたい。一生自分だけのものに出来たら、どんなに幸せかと……」
テーブルに肘を付き、組んだ手で口許を隠しながら、彼は淡々と言葉を紡錘ぐ。
それも何故か───ホラーちっくに。
「それから数日後……男の望みは現実となりました。アンが忽然と姿を消したのです」
すぅ……っと、獲物を狙うかのように覗く高貴の色。
ジッと真っ直ぐに向けられた紫の視線に射ぬかれた私は、息が詰まると同時に、ゾクッと背筋に悪寒が走るのを感じた───。
そんな中、アメリアさんは恐る恐るといった感じでゼロスに尋ねる。
「まさか……その男の人が?」
「……そう」
クスッと笑みを浮かべ、その言葉を肯定して彼は話続けた。
コチラの胸の内など素知らぬフリで。
人形と共に暮らす───男の話を。
「───ある日、アンを連れ戻そうとした村の人々が、ジョーの住む塔を訪れました。そこで人々が見たものは……助けを求めるように一人でに動く、少女の人形だったのです───」
「きゃあぁあああっ!! こわいっ! コワイっ!! 恐いぃ……っ!!」
恐怖から我を忘れたアメリアさんは、手近な物で恐怖を紛らわし始めた。
手近な物───すなわち隣に居た、リナさんとガウリイさんで。
『恐い』と口にする度にリナさんとガウリイさんを殴り、蹴り、首を締める彼女。
「ちょ、ちょっとアメリア……あくまでも言い伝えよ、言い伝え! 落ち着きなさいってばっ!」
首を絞められ、苦しそうにもがくリナさんの姿に、ゼルガディスさんが呆れたように息を吐く。
そこに早々とアメリアさんの攻撃から復活したガウリイさんが、不思議そうな声をあげた。
「で、どういう事なんだ? 今の話」
「一々あたしに聞くなっ!」
いつものボケに、リナさんはアメリアさんを取り押さえながら声を荒げる。
それに代わるかのように、マルチナさんが簡単に説明した。
「男の念が一種の呪いとなって、娘の魂を人形に封印したのね……何て美しい話……」
「恐ろしい話でしょっ!?」
ウットリと呟くマルチナさんに、リナさんから即行で突っ込みが入る。
対して、マルチナさんは小バカにしたように、口角を上げた。
「ふん! この程度の話でビビるなんて、まだまだお子様ねっ!!」
「何ですって!?」
その言葉にアメリアさんがいきり立つ。
───が、しかし。
「そう言うあなたこそ、まだまだ子供ですねっ! その足は何ですかっ!?」
彼女はまるで鬼の首でもとった様に、マルチナさんの震える足を指差し不敵に笑う。
何だかんだと言って、マルチナさんもこの空気に呑まれていたのだろう。
アメリアさんの指摘にたじろいだ彼女は、自棄を起こしたように叫んだ。
「う゛……いや……これは……ほっときなさいよっ!!」
「そうはいきませんっ!!」
ここぞとばかりにたたみ掛けるアメリアさん。
そんな彼女たちの間に割って入ったのは、この現況を作り出した本人───ゼロスだった。
「まぁまぁ二人とも。何故一介の青年に、人間の魂を人形に封印するなんて真似が出来たと思います?」
『え……?』
「男の持つ人形の布地の中に、異界黙示録の写本が縫い込めてあったとしたら……?」
その言葉にリナさんが反応を示す。
が、彼女が何かを言うより先に、ゼルガディスさんが疑わしげな視線をゼロスへと投げ掛けた。
「確かに……写本に宿る魔力が、男の情念に共鳴したと考える事はできる。しかし、デマカセじゃないだろうな?」
直球のその問いに、ゼロスは笑みを浮かべたまま「おぉう」と一歩身を引く。
そのふざけた態度が、ゼルガディスさんの気に入らない原因の一つだと、いい加減気付いても良さそうなものだが……。
まぁ、ゼロスなら分かっててやってるのかも。
「ま、それは行ってみればわかりますよ。男が住んでいたとされる伝説の塔───呪われたアルテメ塔に……」
その言葉に、今度もまた面倒な事になりそうだと、私は深い……深い溜め息を吐いたのだった。
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