そして事態は冒頭のやり取りへ───。
「嫌ぁだぁっ!」
「んな事言ったって他に手が無いんだから、我が儘言わないのっ!」
塔の中の人形対策に着ぐるみを着ることになったのだが、それをゼルガディスさんが断固として拒否する。
「他の奴らがどうだろうと、おれには出来ん。これはポリシーの問題だ!」
「まぁ……何でも良いですけど、早くして下さい」
「だから、おれは着ないと言ってるだろうっ!」
「あっそ、なら別にいいけど? それでゼロスに先を越されたって知らないんだからね」
どの道一緒に探す時点で、先も何もないだろうが……。
ゼロスを目の敵にしているゼルガディスさんには、その言葉は効果的だった。
「ぐ……それは困る」
「それは困るなら、どうせこんなもんは一時の恥だから。ほら着た着た着たぁ!!」
「…………」
ゼルガディスさんは渋々リナさんから着ぐるみを受け取り、嫌々準備を始める。
その隣で私も着ぐるみを手にしようと辺りを見渡し、
「…………アレ?」
けれど着ぐるみが見当たらない。
まだあったはずだけど……。
キョロキョロと周りを見回していると、ゼロスが満面の笑みで近付いて来た。
「はい、ユウさんのはコレです」
そう手渡されたのは何故か普通の服だった。
否、この場合普通とは言えないだろう。
どこの令嬢かと思う程の、フリル満載の衣装が目の前にあるのだから。
「…………えーと?」
「きっとアンティークドール風の衣装なのでしょう。ユウさんにはお似合いだと思いますよ♪」
「……ゼルガディスさん、交換しませんか?」
ゼロスの言葉は取り敢えずスルーして、ダメ元で尋ねてみる。
「お前はこれ以上おれに生き恥を晒せと言うのか?」
「…………ですよね」
ウンザリしながら答える彼に苦笑し───そして。
前回に引き続き、私は成り行きでこの衣装に着替える事になった。
「成る程……効果テキメンね」
「確かに人形達から敵意は消えたようだが……」
着替えて塔に戻ると、先程とは違い、人形達が動き出す気配はなかった。
まぁ───それは良い。
それは良いのだが……。
私にとって、それとは別の問題が浮上していた。
「何だっておれがこんな目に合わなくちゃならないんだ」
「何でしたら今からでも衣装を取り替えますか?」
その問題を直視しないように、ココに来て未だに愚痴を溢すゼルガディスさんに向かって微笑むと、彼は引きつった笑みを浮かべながら首を横に振った。
そんな彼にリナさんは手を振り、声をかける。
「はぁ〜い! どぉ? バニーちゃん、そっちの様子は〜」
「あぁ、全然ダメだ……ところで、そのバニーちゃんてのはやめてくれないか」
「えー、どうして? 結構お似合いよ、ゼルうさちゃん♪」
「お前なぁっ!!」
白うさぎの着ぐるみを着ているゼルガディスさんは、心底嫌そうに声を荒げる。
ただでさえ嫌がっていたのだから、無理もないだろう。
そんなやり取りをしている中、ゼロスは辺りの人形を手に取りながら、困り顔で言った。
「こちらにもそれらしい物は見当たりませんねぇ」
「アメリアの方はどう?」
「この衣装、手が使えませーんっ」
「あっそ……」
彼の報告を聞いたリナさんがアメリアさんにも尋ねるが、返ってきたのはそんな答え。
呆れるリナさんに対し、マルチナさんは「全くドジよね〜」とせせら笑った。
が、私には関係ない。
「わたくしみたいに役に立つ衣装を選びなさいよ」
「多けりゃ良いってもんでもないでしょっ!!」
…………聞こえない。
私には何も聞こえない。
二人の声なんか聞こえない。
ただひたすらに、手元の人形を調べる私。
そんな中、いつの間にか後ろに居たゼロスに声を掛けられた。
「そう言えば、ユウさん」
「何……?」
「確か苦手でしたよね?」
「…………何の話?」
後ろを振り向かずに会話を続ける私。
ゼロスはクスッと笑い───私の肩に手を置くと、耳元に唇を寄せて囁いた。
そして不覚にも、私はフリーズしてしまう。
「……足の多い虫」
その、たった一言で───。
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