いじわる。
いじわるイジワル意地悪っ!
折角見ないようにしてたのに!
考えないようにしてたのに!
「ゼロスのばかぁっ!!」
うずくまる私に、ゼロスが楽しそうに笑う。
「まぁまぁ、ユウさん、落ち着いて下さい。たかがムカデの着ぐるみじゃないですか」
そう。
何故そんな着ぐるみが入っていたのか。
そしてどんな趣味をしているのか。
マルチナさんが選んだ着ぐるみは、真っ赤なムカデだった。
それだけならまだしも、多数ある足を操り、人形を手にしながらワサワサと蠢かしているのが視界の隅に入ってくるのだ。
たかがぬいぐるみ。
ゼロスはそう言うが、嫌悪感は拭えない。
ましてそんな物を直視して耐えられる訳がない。
だから必死に現実逃避してたのに!
「着ぐるみだろうが何だろうが、嫌いなものは嫌いなんですっ!」
「おかしな人ですねぇ? 魔族相手に喧嘩を売ったりしているのに、クモやムカデがダメだなんて……」
その言葉に。
私の理性は弾け飛んだ。
ガバッと立ち上がり、即行でリナさんの前まで行くと、彼女の瞳を真っ直ぐ見据えたまま、ビシッとゼロスを指差して言う。
「リナさん! アレを斬って下さいっ!!」
「は?」
「神滅斬で斬って下さいっ!!」
「ちょ、ユウさんっ!? 何もそこまでっ」
「な、何……どうしたのよ? ユウ」
「お願いします! あの口を、今すぐ直ちに即刻黙らせてくださいっ!!」
「お、落ち着いてくださいユウさんっ! 分かりました! 僕が悪かったのは認めますからっ!」
「だから何があったのよ?」
「それは後でお話ししますからっ! とにかく今すぐ根性悪神官を殺って下さいっ!」
「ちょ、今サラッとスゴい事を……」
それからマルチナさんが私達の間に割って入るまでの数分間。
私はリナさんに神滅斬を使ってくれるよう必死で頼み続けた。
───そして。
「どいつもこいつもっ!! ホントにやる気あるのかしらっ!?」
ふと気付くと、リナさんが腰に手を当てながら怒っていた。
「…………?」
「あ、気が付きましたか?」
「ゼロス……?」
「ユウさんてば、マルチナさんを見た途端に倒れて……流石にビックリしちゃいましたよ、僕」
いつもの笑顔を少し困らせた表情のゼロスに、私は眉を寄せる。
記憶の糸をたどり、どうして倒れたのかを思いだしたのだ。
ゼロスの言葉に段々エキサイトして、何言ってるか分からなくなって。
そんな時に「ゼロス様になんてこと言うのよ、あんたはっ!!」と口を挟んできたマルチナさんの姿を見て、気が遠くなったのだ。
辺りを見渡せば先程と同じ場所。
多分、時間もあまり経っていないだろう。
上半身を抱き抱えられた状態だった私は、ゼロスに「もう大丈夫だから」と伝え、立ち上がる。
先程から痛いまでの視線が刺さっているが、それには気付かなかった事にして。
───なのに。
「マルチナさんがユウさんの事を心配そうに見てますよ?」
「嘘をつけ、嘘を」
折角気付かないフリをしているのに……。
「まったく、そんなに私を怒らせたいの?」
「いえ、そう言う訳では……」
「じゃあ、どうして意地悪言うのよ」
「……それは……ユウさんと……」
「?」
私と……?
けれど、その先は聞くことが出来なかった。
マルチナさんが怒りの形相で近づいてきたのだ
「あんた、いい加減にゼロス様から離れなさいよっ!」
私はその姿をなるべく見ないように、慌ててゼロスの後ろに回り込んだ。
そして、自分の身を守るために、目の前の背中を彼女に向かって突き飛ばす。
「ちょ、ユウさんっ!?」
「ゼロス様っ♪」
ごめん、ゼロス。
あなたの尊い犠牲は無駄にしないから。
心の中で謝りつつ、私はそそくさと二人に背を向けた。
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