「リナさん」
「あ、ユウ。もう良いの?」
「はい、お騒がせしました」
言ってペコリと頭を下げると、リナさんは呆れた視線半分。
ホッとした視線半分で私を見て、そっと息をついた。
「アンタって本当に寝不足に弱いのね」
「はい?」
「何、違うの? 倒れたのは寝不足の所為じゃないかってゼロスが言ってたんだけど」
………………。
「あー、えぇ……まぁ」
本当は違うけど、ここはゼロスの言葉に便乗させてもらおう。
真実を知られたらマルチナさんに、からかわれそうだし。
むしろ追いかけられそうだし。
「ところで写本探しの方はどんな感じですか?」
「あー、全然ダメ。せめてお目当ての人形に、何か目印でもあれば良いのに……」
「ほぅ? 何か特別なお人形でもお探しですか?」
「あー、でもこう数が多いと何が何だか全然……」
「って、誰と話してるんですかリナさん」
「え?」
普通に知らない声と会話を続けるリナさんに呆れながらツッコミを入れると、そこでようやく気が付いたのか、彼女はハッと顔を上げた。
そこに響く不気味な笑い声。
「……ふっふっふっふっふっふっ……本日はアンとジョーの人形塔にようこそ。ごらん、アン。久しぶりのお客様だよ?」
突如、何もない空間から現れたのは……何とも形容しがたい格好の男だった。
マントにブーツにロング手袋。
そこまではよくある一般的な代物なのだが、着ているものと言えば、左右で白黒に分かれた、ぴったりとした全身タイツと、触角のようなものが付いた帽子。
そしてオレンジ色のかぼちゃパンツという出で立ち。
そんなピエロ風の男が、自らの腕の上に座らせた人形に語りかける姿と言うのは、色んな意味で怖いものがある。
「そんな馬鹿なっ!? アレって何百年も昔の話でしょっ!? 普通の人間が生きてられる訳ないじゃない!!」
「あれは普通と言うより、充分いっちゃってると思いますが……」
思わず本音が零れ出る。
その呟きが耳に届いてしまったのか、ジョーと名乗った男はぐりんっと首を動かし、コチラを見下ろした。
「随分なお言葉ですねぇ……? ですが、その姿。わたしの心をくすぐりますよ。コレクションの内の1つにしたいくらいに……ね」
私と目が合うと、にぃ……っと不気味な笑みを浮かべた男は、言ってペロリと舌舐めずりする。
瞬間、嫌な汗が背筋を流れた。
私はズリズリと後ずさり、ゼルガディスさんのいる場所まで来ると、なりふり構わずその背の後ろに張り付く。
「お、おいっ!?」
「お願いします動かないで下さい、お願いします」
コソコソとゼルガディスさんの後ろに隠れさせてもらいながら、私は内心涙する。
今回こんなのばっかり……。
「隠れても無駄ですよ。言い伝えに出てくる男が娘を手に入れる為に何をしたと思います?」
「……何って」
「魔族の力を得ようとした……もしそうだとしたら?」
「まさか……魔族と合体したっ!?」
「異界黙示録の力を利用してかっ!?」
男の言わんとしている事を察したリナさんとゼルガディスさんが、声を荒げる。
それに対し男は、それはそれは楽しそうに危ない笑みを浮かべてみせた。
「そう! あなた方も異界黙示録を探しに来たのですね? これは面白いことになってきたわね、アン」
男がそこまで言うと、後ろにあった扉がひとりでに開き始める。
ギギィ……と軋んだ音を響かせて。
その前で、男は片手を広げると一方的に言い放った。
「いいでしょう。もしあなた達が、わたしの用意した四つの関門を突破し、塔の最上階までたどり着くことが出来たら、ご希望の品を進呈します」
「何だと? おい待てっ!!」
ゼルガディスさんの言葉を聞かず、笑みを浮かべたままお辞儀をする男。
その姿は空気に溶け込むように消えてゆく。
「ただし! お代は高くつきますよぉ? それは、あなた達の命……ふっはっはっはっはっはっ……」
闇に不気味な哄笑を響かせながら───。
あとがき
心奥───それは誰にもわからない。
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