ホッタン(1/7)

「まさかこんな所にまで魔族が関わってくるとはねぇ……」

「どうするんですか、リナさん!? これって完璧に罠ですよっ!?」



四つの関門を受ける為、階段を駆けながら進む途中。

アメリアさんが心配そうに声をかける。



「わかってるって。でも写本がどこにあるかわからない以上、無闇に暴れる訳にもいかないし……」

「あ、その事なんですが」

「何、なんか気付いたの? ユウ」

「気付いたと言うか……あの男の持ってた人形、怪しくないですか?」



前を走るリナさんにそう言うと、彼女は数瞬考える素振りを見せ、頷いた。

人形に異界黙示録(クレアバイブル)が隠されているなら、ジョーとか言う男の、人形に対するあの過剰な振る舞いも理解できなくはない。

まぁ、できれば理解したくはないのだが。



「確かに……となると、最後まで付き合えば自ずと異界黙示録(クレアバイブル)の所まで行けるって事ね!」



言ってる内にも、扉の上に"U"と書かれた場所まで着き、リナさんは迷う事なくその扉を開けた。

───その途端。

部屋に明かりがともり、隅々まで見渡せるようになる。

目の前には左右に並んで置かれたキッチンと、食材、調理道具の数々。

そして二つあるキッチンの中央の台の上には、一人の───否、一つの人形の影があった。

コックの姿をしているそれは、腕を組みながらコチラを見下ろし、関門の内容を発表する。



「誰か代表者を選べ。第一の関門は、ワタシとの料理バトルだっ!」

「料理バトルっ!? ……マジ?」

「とは言え、こんなくだらない勝負で次へ進めるなら、楽なもんですよ」



驚きと言うより呆れの方が強い口調のリナさんに、ゼロスは肩を竦めた。

それに対しガウリイさんは陽気な声で、「そうだな」と頷く。



「何てったって、コッチには女性陣が四人も控えてるんだ。勝ったも同然だぜ!」

「そういう事! 軽い軽い♪」

「ちなみに負けたらジョー様の魔力で人形に変えられるからな! 気合い入れてやれぃ!!」



───が。

余裕だった言葉も、人形の忠告で気弱な物に変わる。



「う゛……だそうよ、気を付けてねアメリア」

「ぇえーーーっ!? …………期待してます、マルチナさんっ!!」

「……わかりましたわ。精一杯応援させてもらいますわ、ゼロス様!」

「でぇえっ!? 僕ですかぁっ!?」



皆さんホント自分に正直でいらっしゃる。

かく言う私も人形にはなりたくない。

そんな訳で、(すが)るような目をしてコチラを見てくるゼロスに、笑顔でエールを送る事にした。



「もはや勝負は見えたな!」



言って人形は華麗な包丁さばきを披露する。

桂剥きから、みじん切りまで難なくこなす人形は、凄いとしか言いようがない。

リナさん達から感嘆の声が上がり───そこへ。



「押し付けられた役とは言え、この僕の力を甘く見てもらっては困りますねぇ?」



一体どこから取り出したのか。

そして着ぐるみはどこへやったのか。

胸元に黄色い鳥のアップリケが付いた、ピンクのエプロンに身を包んだゼロスを見て、どよめきが広がった。

彼は両手に持った包丁をキラリと光らせると、あっという間に素材を切り刻み、鍋の中へ投入していく。

周りからは賛辞の声が上がり、人形も焦りを見せた。

───が。

言っては何だがこの勝負、本当に大丈夫だろうか?

私の目が正常なら、鍋の中身が緑色に見えるのだが……。

思っている内にもゼロスは味見を済ませ、お皿に盛り付けると自信満々ニッコリ笑う。



「完成です。パーフェクト♪」

「は、早いっ!?」



驚く人形はそのままに、ゼロスは料理のお披露目をする。

パカッと蓋を開けてそこから出てきたのは───。



『うげっ!?』



…………とても料理と呼べる様な代物では無かった。

ゼロスの作ったのは、ベースが緑のスープらしきもの。

そのスープ(?)には野菜が浮かび、何故か口々に悲鳴を上げている。



「……臭いが……」

「死ぬ……かも……」

「……たまらん……」

「黄金竜をも一口で倒す! これぞ秘伝の究極料理、『雄羊のカオス風味、マンドラゴラ添え……』」





すぱこーんっ!



どこか誇らしげに料理名を発表するゼロスを黙らせたのは、リナさんのハリセンと、私の杖だった。



「理解不能なもん作るなぁっ!!」

「食べ物の神様に謝ってくださいっ!!」

「……ふっ、何はともあれ勝負あったなっ!」



ふらふらと立ち上がった人形が勝利宣言をする。

その次の瞬間───。

突然ゼロスとマルチナさんが光に包まれ……。



『ゼロス!?』

「……と、一応マルチナ……」



ポンッと音をたて床に転がる二つの小さな人形。

それはまさしく、いつもの姿のゼロスとマルチナさんの人形で。



「あ、可愛い」



思わず口にした言葉に、何故か皆の視線が突き刺さった。

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