「まさかこんな所にまで魔族が関わってくるとはねぇ……」
「どうするんですか、リナさん!? これって完璧に罠ですよっ!?」
四つの関門を受ける為、階段を駆けながら進む途中。
アメリアさんが心配そうに声をかける。
「わかってるって。でも写本がどこにあるかわからない以上、無闇に暴れる訳にもいかないし……」
「あ、その事なんですが」
「何、なんか気付いたの? ユウ」
「気付いたと言うか……あの男の持ってた人形、怪しくないですか?」
前を走るリナさんにそう言うと、彼女は数瞬考える素振りを見せ、頷いた。
人形に異界黙示録が隠されているなら、ジョーとか言う男の、人形に対するあの過剰な振る舞いも理解できなくはない。
まぁ、できれば理解したくはないのだが。
「確かに……となると、最後まで付き合えば自ずと異界黙示録の所まで行けるって事ね!」
言ってる内にも、扉の上に"U"と書かれた場所まで着き、リナさんは迷う事なくその扉を開けた。
───その途端。
部屋に明かりがともり、隅々まで見渡せるようになる。
目の前には左右に並んで置かれたキッチンと、食材、調理道具の数々。
そして二つあるキッチンの中央の台の上には、一人の───否、一つの人形の影があった。
コックの姿をしているそれは、腕を組みながらコチラを見下ろし、関門の内容を発表する。
「誰か代表者を選べ。第一の関門は、ワタシとの料理バトルだっ!」
「料理バトルっ!? ……マジ?」
「とは言え、こんなくだらない勝負で次へ進めるなら、楽なもんですよ」
驚きと言うより呆れの方が強い口調のリナさんに、ゼロスは肩を竦めた。
それに対しガウリイさんは陽気な声で、「そうだな」と頷く。
「何てったって、コッチには女性陣が四人も控えてるんだ。勝ったも同然だぜ!」
「そういう事! 軽い軽い♪」
「ちなみに負けたらジョー様の魔力で人形に変えられるからな! 気合い入れてやれぃ!!」
───が。
余裕だった言葉も、人形の忠告で気弱な物に変わる。
「う゛……だそうよ、気を付けてねアメリア」
「ぇえーーーっ!? …………期待してます、マルチナさんっ!!」
「……わかりましたわ。精一杯応援させてもらいますわ、ゼロス様!」
「でぇえっ!? 僕ですかぁっ!?」
皆さんホント自分に正直でいらっしゃる。
かく言う私も人形にはなりたくない。
そんな訳で、縋るような目をしてコチラを見てくるゼロスに、笑顔でエールを送る事にした。
「もはや勝負は見えたな!」
言って人形は華麗な包丁さばきを披露する。
桂剥きから、みじん切りまで難なくこなす人形は、凄いとしか言いようがない。
リナさん達から感嘆の声が上がり───そこへ。
「押し付けられた役とは言え、この僕の力を甘く見てもらっては困りますねぇ?」
一体どこから取り出したのか。
そして着ぐるみはどこへやったのか。
胸元に黄色い鳥のアップリケが付いた、ピンクのエプロンに身を包んだゼロスを見て、どよめきが広がった。
彼は両手に持った包丁をキラリと光らせると、あっという間に素材を切り刻み、鍋の中へ投入していく。
周りからは賛辞の声が上がり、人形も焦りを見せた。
───が。
言っては何だがこの勝負、本当に大丈夫だろうか?
私の目が正常なら、鍋の中身が緑色に見えるのだが……。
思っている内にもゼロスは味見を済ませ、お皿に盛り付けると自信満々ニッコリ笑う。
「完成です。パーフェクト♪」
「は、早いっ!?」
驚く人形はそのままに、ゼロスは料理のお披露目をする。
パカッと蓋を開けてそこから出てきたのは───。
『うげっ!?』
…………とても料理と呼べる様な代物では無かった。
ゼロスの作ったのは、ベースが緑のスープらしきもの。
そのスープ(?)には野菜が浮かび、何故か口々に悲鳴を上げている。
「……臭いが……」
「死ぬ……かも……」
「……たまらん……」
「黄金竜をも一口で倒す! これぞ秘伝の究極料理、『雄羊のカオス風味、マンドラゴラ添え……』」
すぱこーんっ!
どこか誇らしげに料理名を発表するゼロスを黙らせたのは、リナさんのハリセンと、私の杖だった。
「理解不能なもん作るなぁっ!!」
「食べ物の神様に謝ってくださいっ!!」
「……ふっ、何はともあれ勝負あったなっ!」
ふらふらと立ち上がった人形が勝利宣言をする。
その次の瞬間───。
突然ゼロスとマルチナさんが光に包まれ……。
『ゼロス!?』
「……と、一応マルチナ……」
ポンッと音をたて床に転がる二つの小さな人形。
それはまさしく、いつもの姿のゼロスとマルチナさんの人形で。
「あ、可愛い」
思わず口にした言葉に、何故か皆の視線が突き刺さった。
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