「ああっ! ゼルガディスさんごめんなさいっ!!」
最後の関門へ向かう為、階段を駆け上る最中。
人形にされてしまったゼルガディスさんに謝るアメリアさんの隣で、私は息を切らしながら走っていた。
浮遊が使えればいいのだが、いかんせんアレはスピードが遅い。
仕方なく自分の足で進む事しばし。
「さぁ、残る関門はあと一つ!」
「……って、扉が二つありますよ?」
見上げた先には並んで佇む二つの扉。
「どっちか一つが本物って訳ね!」
「じゃ、わたしは左へ!」
「んー……ど・ち・ら・に……」
「良いからアンタもコッチに来なさいっ!!」
指をフリフリ、どちらにしようか考えていると、焦れたリナさんに腕をグイッと引っ張られた。
今回も勢いのまま、それぞれの扉を開け───。
開いた先は底無しの闇でした。
「ちょっ!?」
「きゃああああっ!?」
浮遊を唱える暇もあらばこそ。
私達はいつの間にか空間を移動し、見知らぬ部屋へとたどり着いていた。
ふと隣を見ると、人形になってしまったアメリアさんと、彼女が持っていた他の人達の人形が山になっている。
「……これが最後の関門だった訳? だぁっ、もうっ! もうちょっとマシなものを考えろっ!!」
「でもまぁ、コレで関門は終わりですし。後は皆を元に戻して、景品を貰って帰るだけですよ」
「景品って……それにどうやって戻すのよ?」
「そこはやっぱりセオリー通り、キスとか?」
首を傾げて言えば、リナさんは面白いくらいに狼狽え始めた。
「き、キスってあんたっ、な、何考えてんのよっ!?」
顔を真っ赤にしながら慌てるリナさんは可愛いが、今はそんな事を言っている場合じゃない。
私は早々に冗談ですと断り、もっと現実的な考えを口にする。
「あのジョーとか言う男を倒せば良いんじゃないですかね?」
その途端。
部屋に響いたのは、噂の的の人物。
ジョーの笑い声だった。
「はっはっはっはっ! いやぁ、愉快愉快。久しぶりに楽しませて貰いましたよ」
薄暗い部屋の奥。
明かりに照らされ現れたのは、例の人形を肩に乗せ、足を組んで座るジョーの姿。
そして、その周りを囲むように台や床に並べられた、何体もの人形たち。
「なぁにが愉快よっ! 一体アンタ何考えてんのっ!?」
「別に何も……」
「リナさん。もし考えてたのなら、もう少しマシな関門だったはずです」
『………………』
私の発言に、固まる二人。
男はコホンと一つ、気を取り直すように咳払いをしてから、意味ありげな視線を寄越してきた。
「も、もっとも……ありがちな言い伝えを利用して、あなたをおびき出すって作戦ぐらいは考えましたけどね。リナ=インバース?」
リナさんの名前を知っている。
このパターンはもしかして……。
「まさかアンタっ!?」
「えぇ。正真正銘、生粋の魔族! そうだろう、アン? ……って、なかなか名演技でしょう? ふっはっはっはっはっ!」
人形のあごに指をかけ話すジョーは、コチラを見ると口を歪めて笑う。
そして大事そうに、アンと呼んだ人形を台の上に置くと私達と相対した。
その表情は、実に楽しそう。
「あのぉ……するってぇと、人形の中に異界黙示録の写本があるって話は……?」
「ズバリ嘘! 言い伝えが全部本当なら苦労しないでしょう?」
「確かにね」
考えてみればこの魔族は一言も異界黙示録があるとは言っていない。
あるとすれば?とか貴方達も探しに来たとか、それらしいことは言っていたけれど。
「まさか、かぼちゃパンツにしてやられるとは思いませんでしたね……」
はぁ……と溜め息を吐き、私は肩を落とした。
よもやこんな茶番劇に付き合わされるとは。
何故もっと早く気づけなかったのか。
呆れる私に魔族はニヤリと笑みを深くし、
「わたしも、まさかこうも簡単に引っ掛かるとは……ねぇっ!?」
言って両の手のひらに生んだ魔力の光を、私とリナさんに向かって解き放つ。
二つの光は、まっすぐ私達へと突き進み───。
どごぉん!
闇が満ちるこの部屋に、爆音とまばゆい光が轟いた。
「ユウとゼロスのアホたれっ!」
「何で私も入ってるんですかっ!?」
爆風に乗りながら攻撃を回避するリナさんの悪態に、術で防いだ私は思わず突っ込む。
「アンタがアイツを怒らせてんでしょーが!」
「だって本当の事じゃないですか!」
「本当なら何言っても良い訳じゃ無いでしょう!!」
───……まぁ、確かに。
それなら……。
「そのかぼちゃパンツ、お似合いですね」
どごおーーーぉん!
先程よりも大きな爆発音が部屋に広がった。
『………………』
「逆撫でしてどーすんのよっ!?」
「じゃあどうしろって言うんですかっ!!」
「良いから黙ってなさいアンタはっ!」
ヒドイ。
ちょっとしたお茶目な冗談なのに……。
「………………」
いや、まぁ……おふざけはこの辺までにしておこう。
いくら考え無しの相手と言えど、曲がりなりにも純魔族。
手を抜ける相手ではない。
そうこうしている内にもリナさんは私からジョーへと意識を移し、臨戦態勢を整えていた。
「何にしても、魔族とわかれば遠慮はしないわ! 烈閃槍っ!!」
「ぐぁっ……」
リナさんが言い放ち様に放ったそれは、寸分違わず魔族に直撃。
───だが。
「……おあいにく様」
確かに当たったはずなのに。
男はゆっくりとコチラを見ると、奇妙な動きでリナさんへと襲いかかった。
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