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「何の用だ、ゼロス」

「いえ、用があるのはユウさんにです」



ゼルガディスさんにそう答えると、彼は私を見てニッコリと笑みを深める。

それはそれは不自然なくらい。



「ユウさんにもお詫びしなくてはと思いまして♪」

「…………お詫び?」

「はい、助けに入るのが遅くなってしまって申し訳ありません……」



訝る私にゼロスは謝罪を口にする。

そしてそのまま身を屈めると、私に顔を近づけ───。



たしっ。



「………………」

「………………」



迫り来た彼の口を両手で塞ぐと、目の前の顔が困ったように笑った。



「ユウふぁん?」

「………………」



口を塞いでる所為でくぐもって聞こえる声。

そして次の瞬間。



「何してんのよ、あんたっ!?」



飛んできたのはマルチナさんの声と、どんっ!と言う衝撃。

その力に押し負け、私は思わず尻餅をついた。



「ちょ、マルチナっ!!」



それを見ていたリナさんの声が届くが、マルチナさんの耳には入らなかったらしい。

彼女はゼロスの腕に抱き着くと私を見下ろし、睨みつけてきた。



「ゼロス様に何てことしてくれたのよっ!?」

「いえ……私は何も……」



けれど、そんなありのままの言葉も信用されず、ますますマルチナさんの怒りを煽ってしまう結果になってしまう。



「何もって……嘘つくんじゃないわよっ! ちゃんと見てたんだからっ!!」



見ていたと言われても……。

本当に何もなかったのだから仕方がない。

訳がわからず私は隣に居たゼルガディスさんに助けを求めるが、彼もまたお手上げと言うように肩を竦めて見せるだけ。



「あの……?」

「覚えてらっしゃいっ!」



それだけ言うとマルチナさんは肩を怒らせ、さっさと(きびす)を返して何処かへ行ってしまった。



「えーと……?」

「ちょっと、ユウ!」

「大丈夫ですかっ!?」



訳が分からず呆然と彼女の後姿を眺める私……とゼルガディスさん。

そんな私達の側にリナさんとアメリアさんが駆け寄り、口々に心配してくれた。

とりあえず私は小さくなっていくマルチナさんから視線を外し、彼女達に何でもないと笑顔を向ける。



「大丈夫ですよ。何故かマルチナさんに怒られちゃいましたけど」

「そりゃあ……」

「あんな場面を目の前で見せられたら」



きまり悪そうに顔を見合わせる二人。

やはり事情が呑み込めず、私は首を傾げた。



「?」

「そう言うアンタはどうも思わない訳?」

「何がですか?」

「何って、ゼロスさんにキスされて何とも思わないんですか?」

「…………は?」

「だぁかぁらぁ! こんな奴にあんな事されて腹立たないのかって聞いてんのよ!」



ビシッ!とゼロスに指を突きつけるリナさん。

その顔は赤く染まり、怒りに満ちている。

対して指を突き付けられたゼロスの方は何が面白いのか、満足そうに笑みを浮かべていた。

えー……と?

何だこの状況は?

思考を働かせつつアメリアさんを見ると、こちらも同じく頬を染めているが、何故か期待に満ちた瞳がそこにある。

もしかしなくても、誤解されてる?



「……私、キスなんてされてませんが?」

『え……?』



真実を伝えると、リナさん達は一瞬固まった。

まぁ、実際はされそうになったのを、未然に防いだと言う方が正しいが……。

拍子抜けした二人は、ゼルガディスさんに視線を移し、問い掛ける。



「そうなの?」

「お前達の言うような事はなかったぞ」



くだらないと言わんばかりのゼルガディスさんに、二人は再び顔を見合わせた。



「わたしはてっきり……」

「あたしだって……」



……まぁ、丁度私とリナさん達の対角線上に彼が居た所為でそう見えたのだろう。

……それにしても。



「どうしてくれるんです? マルチナさん、思いっきり誤解しちゃったじゃないですか」



ジト目で見やれば、困りましたねぇと笑顔で後ろ頭を掻くゼロス。

その事から、全く反省していないのが窺えた。



「ま、その内誤解も解けますよ♪」

「……その内じゃ困るんですが」



ただでさえマルチナさんには良く思われていないみたいなのに。

これ以上の厄介事はごめんである。

あっけらかんとしているゼロスに、無駄と分かりつつ呆れた眼差しを向けてみるが、やはり彼にはどこ吹く風。



「まぁまぁ、過ぎちゃった事は仕方ないじゃないですか」



……まったく、彼の悪ふざけにも困ったものである。

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