それからと言うもの。
あれでマルチナさんの誤解が解けるはずもなく。
むしろ知られたら溝は深まるばかりの状況で。
そんな中、先回りしたマルチナさんから、それはそれは涙ぐましい数々の嫌がらせが始まった。
道を行けばトラップ。
街を行けば鉢植え、水入りバケツが落ちてくる。
先日訪れた街では、ブラスラケッツなる競技で、執拗に狙われたし……。
そして今も、目の前には明らかに罠とわかるソレがあった。
地面にある、周りと色の違う円───つまりそこだけ一回掘り起こされたであろうその様子は、『ここに落とし穴があります!』と力一杯主張していたりする。
しかも本日5つ目と来たもんだ。
「……………はぁ」
今までは避けて通って来たが、それさえ億劫になってきた。
私は溜め息を吐くとそのまま真っ直ぐ進み───。
「って、ちょっと! 何でっ? 何で落ちないのよっ!?」
無事落とし穴の上を通過した私を見て、木の影から様子を窺ってたマルチナさんが悔しそうに声を上げた。
そして自ら、ちゃんとそこに落とし穴があるか確かめる為に歩を進め、
ドサッ。
「きゃあっ!?」
「……………」
自分で罠にかかってれば世話がない。
私は見なかったことにしてリナさん達に声を掛けた。
「行きましょうか」
「そうね」
「……良いんですか? 放っておいて」
「自分で掘った穴ですし、意外とマルチナさんって丈夫みたいですし大丈夫でしょう、きっと」
心配するアメリアさんにそう答え、私は足を踏み出した。
すると、
「ちょっと待ちなさいよ、あんた!」
「………………」
穴から這い出そうとしているマルチナさんから呼び止められ、リナさん達が立ち止まる。
が、私はそのまま知らんぷりを決め込み、歩みを進め、
「ちょっ!? こらっ! あんたよ、あんたっ! そこの白いの止まりなさいっ!!」
「………………」
やれやれ。
大声で叫ぶマルチナさん。
街道を行く人々は何事かと彼女を見やり、『そこの白いの』と表現された私へも好奇の視線が送られる。
私は仕方なく立ち止まると、ぶつぶつ呟いてから振り返った。
杖をつき、彼女を一瞥する目は呆れと疲れで半眼になっていることだろう。
「……何ですか?」
「何ですかじゃないわよっ! 何であんたは無事なのよ!?」
「何の事です?」
「落とし穴に決まってるじゃないっ!! 何であんたが無事で、わたしが落ちなきゃなんないのよっ!?」
「重かったんじゃないですか?」
その言葉に。
その一言に。
マルチナさんの時間が一瞬止まる。
周りの時間も止まる。
そして、次の瞬間───。
「な、ななな何ですってぇっ!?」
怒号が飛び、マルチナさんは物凄い形相で穴から這い出そうとしていた。
…………まぁ。
実際は浮遊で浮かび、穴の上を歩いたように見せただけなのだが……。
そんな事を欠片も想像していない彼女は、這い上がるとコチラへと足を一歩踏み出し───どさっ。
「きゃあっ!?」
私が振り向きざまに作った、簡易落とし穴に見事ハマってくれた。
作動させたのは地精道という術で、元は穴を掘るだけの術だが、使い方次第では色々役に立つ。
「落とし穴って言うのはそういうのを言うんですよ」
「わたくしの落とし穴にケチを付ける気っ!?」
しかし、それに答えたのは私ではなかった。
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