「あの、帰るって何ですか?」
「ぇ……?」
真っ直ぐコチラを見据えるゼロスの目。
常であれば閉じられた瞳は、哀しげな光を宿し揺れていた。
その真剣な瞳を見つめ返し、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「カエルって言うのは両生類の総称で、幼時はおたまじゃくし……」
「って、そうではなくてっ! さっきユウさんが言っていたでしょう?」
「私が……?」
「帰りたいって。帰っちゃおうかなって……どこへ帰るんですか?」
───あぁ。
何だそう言うことか。
まさかアレを聞かれていたとは……。
「……盗み聞きしてたの?」
「そんなつもりじゃ無かったんですが……」
言いつつも少なからず罪悪感はあったのだろう。
段々声が小さくなっているのが良い証拠である。
「まぁ、良いけど……」
聞かれたからといってどうなる話でもないし。
いくらでも誤魔化しようがある。
「で、それを聞いてどうするつもり?」
「どうって……」
言って言葉に詰まった彼はやがて面白くなさそうな……ふてくされた様な声で呟く。
「彼……あぁ、いえ、他の方は知ってるのかと思うと、居ても立ってもいられなくなっただけです」
「………………」
…………へぇ?
何となくゼロスの新たな一面を垣間見た気がして、またもや口端が緩みそうになる。
それを何とか押し止め、私は意識して無表情のまま肩を竦めて見せた。
「ちなみに私はまだ帰るつもりはないよ。まだ、やらなきゃならない事があるから」
そう、私がここに来た目的は『彼女』の我が儘を叶えるため。
今のままでは帰りたくても帰れない。
「あれは何て言うか、一種の現実逃避。明日からまたマルチナさんにイジメられるのかなって。誰かさんの所為でね?」
「それはっ……ユウさんが楽しそうに……笑うから……」
「は?」
それはどういう?
その意図を計りかねゼロスを凝視するが、彼は慌てた様子でそれを無かった事にしようとする。
「な、何でもないですっ! 今のは忘れてくださいっ!」
「と言われても」
「っ……な、何でもないんですっ!」
様子のおかしい彼の顔を覗き込むと、ゼロスの顔は私の視線から逃げるように再び背けられた。
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