「ごめんなさい」
数瞬の間、目をふせ謝る私。
対してゼルガディスさんは訝しげな表情を浮かべ、不思議そうに問う。
「……なぜ謝る?」
しかし、次の瞬間。
「なっ……!?」
私の手にしたものに気付いたのか、驚きの声を上げて後ずさった。
「本当にごめんなさい」
「そう思うなら止めろっ!」
「こうするしか無いんです……」
手にした物をギュッと握りしめ、固い表情のゼルガディスさんに一歩……また一歩と近付いて行く。
それと同時に彼は後退し、やがて背中にトンッと木が当たった。
「っ……!?」
「直ぐ済みますから」
「そういう問題じゃないだろう!」
「大丈夫、私に身を任せて」
「オイッ!?」
怖くないですよー?と近づけば、彼はビクリと体を強張らせる。
どうやら焦り過ぎて魔法で逃げると言う選択肢は浮かばないみたいだ。
助けを呼ぼうにもリナさん達は少し離れた所に居り、尚かつアチラはアチラで取り込み中。
そして例え来てくれたとしても、ゼルガディスさんにとってそれは敵を増やす事と同じだった。
私はゼルガディスさんの前まで来ると、スッと彼の頬に手を添え、
「綺麗にしてあげますからね」
そして───。
「うわああぁぁっ!!」
……哀れな子羊の断末魔が森中に響き渡った。
フェミール王国。
国民を有能な巫女に育て上げ、男が住むことも、入国することも許されない、女だけの都。
そこには巫女になる為に祝福を授ける魔力を秘めた何かがあると言う。
それが異界黙示録かもしれない。
そう意気込むリナさんについて来た私達は今、混沌の中に居た。
「どうしてオレがまた、こんな格好しなきゃならないんだあぁっ!?」
ひと仕事を終え、草むらから出てきて一番最初に見た光景。
それは赤いリボンにピンクのワンピース、これまた赤いブーツに身を包んだガウリイさんだった。
「何言ってっかなぁ? 女しか入れない国となれば当然の展開でしょ?」
「そんな事言って自分達も服着替えて、やけに楽しそうじゃないか……」
「そんな事無いわよ……」
荷物の中を漁りつつ否定するリナさんだったが、いつもの格好とは違うのは事実である。
「あ、あったあった」
「?」
そんな会話を繰り広げる中、目的の物を見つけたリナさんは、不思議がるガウリイさんに口紅を見せつけ、満面の笑みを浮かべた。
「さぁ、ガウリイちゃん。仕上げよ♪」
「え゛ぇっ!? た、助けてぇーーーっ!!」
余程嫌だったのだろう。
口紅を見て、ガウリイさんはその場から逃げだした。
その様子を見ていたゼロスは、なびく彼の長い髪を見て一言ポツリと呟く。
「羨ましいわ、ガウリイさんの髪。わたしの長さじゃ三つ編みは出来ないものねぇ……」
───と。
それはそれは残念そうに。
ちなみに只今の彼の装いは、化粧をバッチリ施し、スリットの大きく開いた赤いチャイナドレス姿だったりする。
そんな彼の髪を櫛でとかしながら、ウットリするマルチナさん。
「そんな……ゼロス様、この髪型で充分素敵ですわ」
この状況を混沌と呼ばずして、何と呼ぼう。
───そう。
女しか入れない国に潜入する為に、男性陣を女装させたのだ。
そして極めつけは、アメリアさんに拉致られたゼルガディスさん。
「皆さん見て下さいっ!」
『?』
「じゃーんっ!」
『おぉっ!?』
嬉々としたアメリアさんの声に、皆は息を飲む。
「どうです? 中々のもんでしょう! へっへっへー。化粧はユウさんがしてくれたんですよ!」
「……ユウさんが?」
「まぁ、暇でしたし……」
「………………」
眉を顰めたゼロスに答えれば、彼の眉間のしわは更に深く刻まれた。
まぁ、リナさんはガウリイさんに付きっきりだったし、ゼロスはマルチナさんと準備してたし……。
最近ではゼロスがそばに居るお蔭か、マルチナさんからの嫌がらせも大分なりを潜めているが、わざわざ地雷を踏みに行く勇気を私は持ち合わせていない。
となると、必然的にあぶれた私はする事がない。
そこで、なにやら本格的な女装をさせようとしているアメリアさんのお手伝いを申し出たのだ。
出来映えは皆の様子から見ても、かなりのもの。
ただ、ゼルガディスさんには悪いことをしたと思うけど……。
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