「ねぇ、私がルルさん達を羨ましいと言ったらお怒りになる?」
「…………」
「有能な巫女になることだけが、お母様に決められたわたしの未来なの。わたしの意志と関係なく……それがわたしの運命」
ギュッと手に力を込め、ミワンさんは遠い目をする。
「でも、もうたくさん。こんな偽りの生活なんて……自由に旅をしているあなた方には分からないでしょうね……」
浮かべられたのは自嘲の笑み。
するとそれまで黙って話を聞いていたゼルガディスさんが、ボソリと呟いた。
「未来を変えるなんて簡単だ」
「……え?」
「あ……いや」
思わず口をついて出てしまったのだろう。
いつもの口調だったことに、慌てるゼルガディスさん。
彼は一瞬焦った後に頬を染めてうつ向き、誤魔化すように付け加える。
「あなただって未来なんて簡単に変えられる……で、ございますわ」
何か色々間違った話し方な気はするが……。
それでも彼の言いたいことは伝わったらしく、ミワンさんは笑みを浮かべる。
「ルルさんて優しい方ですのね」
「…………」
その真っ直ぐな言葉に照れるゼルガディスさん。
辺りには何とも言えない雰囲気が流れ始めた。
……………って。
これでは本当にただの覗きじゃないか。
私は一つ息を吐き出し、この場を後にしようと呪文を唱え始めた。
と、その時。
空気は一瞬で変化する。
破壊神と名高いリナさんの出現によって。
「ルルさ〜ん、そろそろ街へ繰り出したいんだけど、お邪魔だったかしら?」
「ば、バカッ」
彼女に後ろから首を締め付けられ、苦しそうにもがくゼルガディスさん。
そんな事はお構いなしにと、彼の首に腕を巻きつけたまま、リナさんはキッパリと言い放った。
「行・く・わ・よ」
「…………」
彼女に促され、彼は後ろのリナさんごと立ち上がると、無言で去って行く。
ミワンさんをその場に残して。
「ルルちゃんたら隅に置けないわねぇ?」
「そ、そんなんじゃない」
耳をすませば、からかいを含んだリナさんの声と、照れてるゼルガディスさんの声が聞こえてくる。
そんな中───……不意に。
先程飛び去った小鳥が私の隣に止まり、ピチチチッと鳴いた。
その鳴き声に、呆気にとられていたミワンさんが正気を取り戻し、こちらに視線を向ける。
すると、
「あなた……」
「……あ」
しまった油断した。
……苦笑をもらしながら植木を掻き分け彼女の隣に降り立ち、私は謝罪の言葉を述べる。
「ごめんなさい。お二人の話を聞くつもりは無かったんですが……成り行きで……」
「あなた確かルルさんと一緒に居た……」
「ユウと言います」
言って私はペコリとお辞儀をする。
そして、この国に来た当初の理由。
祝福を授かると噂されている物の正体を聞くために顔を上げ、微笑んだ。
「少しお話良いですか?」
「はい?」
「この国には魔力を秘めた何かがあると聞いたんですが、ご存知ですか?」
「……おそらく……街の外れにある清めの泉の事でしょう」
ミワンさんは先程ゼルガディスさんが座っていた場所を私にすすめてくれながら、ポツリと呟く。
私は彼女の隣に腰かけ、次の言葉を待った。
ミワンさんはどこか悲しそうな目を伏せ、そして清めの泉について話してくれる。
「……巫女になる為にはその泉に在るご神体に触れるのが慣わしなんです」
「………」
「それに触れると、身も心も清められ、立派な巫女になれると言われています」
「そうですか。ありがとうございます」
お礼を言いつつ、ミワンさんに聞いたのは失敗だったかもしれないと後悔した。
巫女になりたくないと言っていた彼女にとっては、ご神体もただの道具に過ぎず、そして忌まわしい物に他ならないのだろう。
となると、これ以上彼女に聞くのは躊躇われる。
私はそのまま立ち上がると、ミワンさんに別れを告げ、早々にその場を後にした。
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