たった一本の道を違えるだけで薄暗い路地へと続く道は、まるで別世界への入口のようで。
そんな現実と非現実的な空間が交差する場所で、私は自分の無力さを突き付けられていた。
「……んっ……ゃっ……」
以前、触れるだけのキスをされたことがあったが、それとは比べものにならない、言葉も、息すらも奪われるようなゼロスからの激しい口づけ。
突然のことに気が動転し、息継ぎも出来ず何とか逃れようとゼロスの肩口を押し返すのだが、どう足掻いたところでゼロスから離れることは出来なかった。
それでも何とか肩に爪を立て、ゼロスに抵抗を示す。
すると、その手が邪魔と言わんばかりに手首を掴まれ、壁に押し付けられた。
まるで何かに急き立てられているかのように。
ゼロスは狂おしい程に責め立ててくる。
そうこうしている内に、息苦しさと相まって涙が浮かび、それは頬を伝って流れ落ちた。
それに気付いたゼロスは、今度は唇を瞼に寄せ、涙をペロリと舐めとる。
───と、そこに。
「ゼロス様ーっ?」
「っ!!」
間近に迫ったマルチナさんの声に、私はビクリと身体を竦ませた。
すると、今度は抱きしめられるようにして壁際に押しやられる。
確かにこの角度なら、私の姿は見えないだろうが、近づかれれば一目瞭然。
しかしそれが分かっていても、歴然とした力の差の前ではどうする事もできなかった。
私に出来るのは、そのままの体制でマルチナさんが通り過ぎるのを待つ事だけ。
「おかしいわねぇ? 確かにゼロス様がいらっしゃったと思ったんだけど……」
『…………』
直ぐ側にマルチナさんの姿。
いくらゼロスが私から唇を離してくれたとはいえ、こんな所を見られたら誤解されるのは請け合いで。
ゼロスに聞こえてしまうんじゃないかと思う程、私の心臓はドキドキと高鳴っていた。
が、そんな動揺を、心臓の音を。
気取られたくなくて、壁に張り付き少しでもゼロスから離れようとするのだが、逆に彼は逃がさないと言わんばかりに密着してくる。
これじゃあマルチナさんに見付かった時、言い訳も何も出来たものじゃない。
私はただただ、彼女に見付からないように祈った。
すると、
「ゼロス様? ゼロス様ーっ?」
『………………』
祈りが通じたのか、はたまたただの偶然か。
再びゼロスを探し始めたマルチナさんの声が徐々に遠ざかって行った。
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