『無性にユウさんを泣かせてやりたいです』
うつ向きボソリと告げられたゼロスの怖い宣言に、私は動けなかった。
穏やかではない物言い。
見えない瞳と真意。
何より、ゼロスが怒っているように見えたから。
でも。
だからと言って、黙って泣かされるつもりは無い。
どうしようか……そう考えていると、それを見ていた彼は大きく深い溜め息を吐き、
「……今回は見逃してあげます」
───と呟いた。
そして私の体を反転させると肩を掴み、耳元で囁く。
「でも、次はありませんよ?」
「わっ……とと!」
ポンッと背中を押され、その反動で私は街道へと押しやられ───。
「ちょっと、ゼロスッ!?」
振り向き見た先。
そこに彼の姿はなかった。
「…………何なのよ……一体……」
細く続く小路。
明るい街道から見ると、そこは……闇への入り口にしか見えなかった。
それからいくばくもせず。
情報集めを大義名分に、街をうろついていると、一人、売り物の鏡を見ながら眉間にシワを寄せているゼルガディスさんに出くわした。
「あんまり恐い顔してると、女の子に泣かれちゃいますよ?」
「……ユウか……ほっといてくれ」
振り向きもせず、鏡越しに睨まれ私は苦笑する。
どうやら相当ご機嫌ななめらしい。
「さっきはミワンさんと仲良く話してたのに、私には随分つれないんですね」
「なっ!? 見てたのかっ!?」
ガバッと振り向くゼルガディスさんに対し、私は一応注釈しておく。
「言っておきますが、あの場に一番最初に居たのは私ですよ?」
「…………」
ゼルガディスさんは苦虫を噛み潰した顔をし……と、何かに気付いたのか急に真面目な顔をした。
その事を不思議に思い、私は首を傾げる。
「……ゼルガディスさん?」
「……泣いていたのか?」
「ぇ?」
まさかそんな事を言われるとは思っておらず、驚き聞き返す私に、ゼルガディスさんは気まずそうにポツリと言った。
「……跡が」
「…………」
言われて私は傍らにある鏡を見る。
すると彼の言う通り。
鏡の中の私の目尻にうっすらとその痕跡が見て取れた。
おそらく先程流した涙が原因だろうが……。
「あくびした時に涙が出ただけですよ」
「…………」
「昨日遅くまで起きてたので」
困ったように笑いながら告げ、私は目じりを擦る。
それを見た彼は眉を顰め、私の手を取ると真面目な顔で確認をしてくる。
「大丈夫なのか?」
「はい。ただの寝不足ですから」
「………何かあれば言え」
「……?」
「聞いてやるくらいしか出来んかもしれんがな」
それだけ言うと、ゼルガディスさんはそっぽを向いてしまった。
見れば彼の頬は赤く染まっている。
つまり、これは彼なりの気遣いで。
「ありがとうございます」
「……いや」
照れてボソボソ話す彼に、笑みが零れる。
リナさんといい、ゼルガディスさんといい。
不器用な優しさがとても嬉しい。
もちろんガウリイさんやアメリアさんの様な素直な優しさも、ゼロスなりの気遣いもしかり。
…………失いたくないな。
この繋がりを。
この日々を。
そんな思考に囚われ、突然上がった彼の声に、直ぐさま反応する事が出来なかった。
「ミワンっ!?」
「……ぇ?」
彼の声に振り向けば、私達の横を走り過ぎて行くミワンさんの姿があった。
それを追い掛けるゼルガディスさん。
「って、ちょっと!?」
私も慌てて駆け出し、二人について行く。
途中、路地から出て来たアメリアさんがゼルガディスさんにぶつかりそうになったが、彼はそのままミワンさんを追って行ってしまう。
そこに私が声をかけた。
「アメリアさん二人の事は心配しないで」
「ユウさんっ!?」
「それからリナさんに泉で会いましょうって伝えて下さい」
ミワンさんが走って行った方向から考えても、彼女が向かった先は清めの泉と思われる。
私はアメリアさんに伝言を残すと、そのまま二人を追った。
そうこうする内に、徐々に街並みは後ろへ過ぎ去っていく。
やがて、森の中にやってきた頃には差が開き───二人の姿は見えなくなっていた。
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