「ふむ、リードの村へようこそ。泉の中にコインを入れてベルを鳴らすと良い事あるよ、リード村観光協会……」
穏やかな時が流れる小さな村。
そこに観光スポットとしてある、これまた小さな人口の泉。
その前に立てられた案内板を読んでいたゼロスは、「財政難なんですねぇ……」と言いながら鞄から財布を取り出し泉にコインを投げ入れた。
何だかんだと言いながら観光を楽しんでいるあたり、意外とミーハーなんだろうか?
彼の隣でそんな事を思っていると、紐を引っ張ったゼロスの頭にベルが直撃した。
「ぐぇ……」
「大丈夫?」
「はい……何とか……」
隣でひっ潰れているゼロスに声をかけると、彼はヨロヨロと何とか身を起こす。
「それにしても手痛い幸福だね」
「いや……絶対違いますよね」
「そう? 厄除けって考えれば良いんじゃない?」
「痛い時点で厄除けじゃ無い気もしますが……」
「…………まぁ、他力本願に頼るなって事かな」
「…………」
そんな話をしていると、通りの向こうにあるオープン式の食堂から、リナさんの声が響いてきた。
「あーあ、異界黙示録の写本を尋ねて旅を続けて来たのはいいけど、どうしてこうまともな写本が出てこないのよっ!?」
ドンッ!
と、テーブルを叩き付け、怒りをあらわにするリナさん。
まぁ……それも仕方のない事だろう。
聖なる加護が授かると思っていた呪文はお祭りの踊りだったし。
ブラスラケッツなる競技で優勝すれば異界黙示録の手掛かりが手に入ると言われていたのに、実際にフタを開けてみればなんて事はない。
クレア=ゲイブルという、写本の名前と似ている創始者の事が書かれた代物だったり……。
そして、この間のフェミール王国の一件。
あれも例外では無かった。
……と言うのも、異界黙示録関係の力が働いているかと思われたご神体というのが、たんなる嘘発見機だったのだ。
それによってミワンさんが男だとわかり、ゼルガディスさんが人間不信に陥ったりしていたが……。
そんなこんなで、今までの情報は全てが役立たず。
リナさんが怒るのも頷ける。
「あーあ、一体どっかにまともな写本って存在しないもんかしらっ!?」
「それか、いっその事、異界黙示録の本体か……だな」
まぁ、写本があるのだから本体があっても不思議ではないのだが、それこそ雲を掴むような話である。
そう。
「そんな簡単に見つかるもんでもないだろ?」と、ガウリイさんにも分かるくらいには。
「結局はそうなんだけどね。ガウリイに言われると、尚更ガックリくるわ……」
力無く項垂れるリナさん。
───そんな中。
一人のほほんとしたゼロスが、彼女達に近づき、頭をポリポリ掻きながら、
「無い事もないですけど……」
と、事もなげに言ってのけた。
『えっ!?』
「いえ……その……まともな写本と言うか、クレアバイブルの完全なる写本なら……そこの山の神殿に」
彼が指差す方を見れば、確かにそこには神殿が建てられている。
と、それを聞いたゼルガディスさんがゼロスの胸倉を掴み、怒りのままに詰め寄った。
「貴様! よくも今の今までっ!!」
「そうよっ!」
しかしそれも束の間。
「何でそう言うこと早く言わないのっ!」
ガンッとゼルガディスさんを跳ね退け、今度はリナさんがゼロスを追及し始める。
突き飛ばされたゼルガディスさんは「ぐぁ」と呻いていたが、今はそれどころではない。
リナさんに張り倒され、床にうつ伏せ状態のゼロスは苦しげに弁解する。
「み、皆さんの役には立たないと思ったものですから……」
「どゆ事どゆ事?」
「それがですね……」
彼の頭をガッチリ固定し離さないリナさんに対し、ゼロスが釈明しようとした、まさにその時。
ガンッ!
と軽快な音を立てた攻撃が、リナさんの頭を襲った。
「ひゃあっ!? 何すんのよっ!?」
彼女が怒りに任せて振り向き見たもの。
それは───。
「……え?」
「大丈夫でしたか? ゼロス様……」
何故かウェイトレス姿のマルチナさん。
その人だった。
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