オツカイ(1/7)

「ふむ、リードの村へようこそ。泉の中にコインを入れてベルを鳴らすと良い事あるよ、リード村観光協会……」



穏やかな時が流れる小さな村。

そこに観光スポットとしてある、これまた小さな人口の泉。

その前に立てられた案内板を読んでいたゼロスは、「財政難なんですねぇ……」と言いながら鞄から財布を取り出し泉にコインを投げ入れた。

何だかんだと言いながら観光を楽しんでいるあたり、意外とミーハーなんだろうか?

彼の隣でそんな事を思っていると、紐を引っ張ったゼロスの頭にベルが直撃した。



「ぐぇ……」

「大丈夫?」

「はい……何とか……」



隣でひっ潰れているゼロスに声をかけると、彼はヨロヨロと何とか身を起こす。



「それにしても手痛い幸福だね」

「いや……絶対違いますよね」

「そう? 厄除けって考えれば良いんじゃない?」

「痛い時点で厄除けじゃ無い気もしますが……」

「…………まぁ、他力本願に頼るなって事かな」

「…………」



そんな話をしていると、通りの向こうにあるオープン式の食堂から、リナさんの声が響いてきた。



「あーあ、異界黙示録(クレアバイブル)の写本を尋ねて旅を続けて来たのはいいけど、どうしてこうまともな写本が出てこないのよっ!?」



ドンッ!

と、テーブルを叩き付け、怒りをあらわにするリナさん。

まぁ……それも仕方のない事だろう。

聖なる加護が授かると思っていた呪文はお祭りの踊りだったし。

ブラスラケッツなる競技で優勝すれば異界黙示録(クレアバイブル)の手掛かりが手に入ると言われていたのに、実際にフタを開けてみればなんて事はない。

クレア=ゲイブルという、写本の名前と似ている創始者の事が書かれた代物だったり……。

そして、この間のフェミール王国の一件。

あれも例外では無かった。

……と言うのも、異界黙示録(クレアバイブル)関係の力が働いているかと思われたご神体というのが、たんなる嘘発見機だったのだ。

それによってミワンさんが男だとわかり、ゼルガディスさんが人間不信に陥ったりしていたが……。

そんなこんなで、今までの情報は全てが役立たず。

リナさんが怒るのも頷ける。



「あーあ、一体どっかにまともな写本って存在しないもんかしらっ!?」

「それか、いっその事、異界黙示録(クレアバイブル)の本体か……だな」



まぁ、写本があるのだから本体があっても不思議ではないのだが、それこそ雲を掴むような話である。

そう。

「そんな簡単に見つかるもんでもないだろ?」と、ガウリイさんにも分かるくらいには。



「結局はそうなんだけどね。ガウリイに言われると、尚更ガックリくるわ……」



力無く項垂れるリナさん。

───そんな中。

一人のほほんとしたゼロスが、彼女達に近づき、頭をポリポリ掻きながら、



「無い事もないですけど……」



と、事もなげに言ってのけた。



『えっ!?』

「いえ……その……まともな写本と言うか、クレアバイブルの完全なる写本なら……そこの山の神殿に」



彼が指差す方を見れば、確かにそこには神殿が建てられている。

と、それを聞いたゼルガディスさんがゼロスの胸倉を掴み、怒りのままに詰め寄った。



「貴様! よくも今の今までっ!!」

「そうよっ!」



しかしそれも束の間。



「何でそう言うこと早く言わないのっ!」



ガンッとゼルガディスさんを跳ね退け、今度はリナさんがゼロスを追及し始める。

突き飛ばされたゼルガディスさんは「ぐぁ」と呻いていたが、今はそれどころではない。

リナさんに張り倒され、床にうつ伏せ状態のゼロスは苦しげに弁解する。



「み、皆さんの役には立たないと思ったものですから……」

「どゆ事どゆ事?」

「それがですね……」



彼の頭をガッチリ固定し離さないリナさんに対し、ゼロスが釈明しようとした、まさにその時。

ガンッ!

と軽快な音を立てた攻撃が、リナさんの頭を襲った。



「ひゃあっ!? 何すんのよっ!?」




彼女が怒りに任せて振り向き見たもの。

それは───。



「……え?」

「大丈夫でしたか? ゼロス様……」



何故かウェイトレス姿のマルチナさん。

その人だった。

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