「ま、マルチナ……何? その格好……アンタ何やってんのっ!?」
重なったお皿を片手に、ゼロスを甲斐甲斐しく助け起こしているマルチナさんを見て、リナさんが驚きの声を上げる。
するとマルチナさんはいとも平然に、
「何って見ればわかるでしょ? 路銀を稼ぐためにアルバイトしてるのよ」
と、言ってのけた。
そう言えば彼女、以前も造花のバイトや、ゾアメルグスターグッズの販売に勤しんでいたんだっけ。
元王女様とは思えないくらい、庶民の生活に溶け込んでいる。
そんな彼女にリナさんはどうでも良さそうな視線を向け、
「あっそ、大変ね」
と述べた。
そこに飛ぶ野太い怒声。
「くぉら、アルバイトっ! サボってやがると給料差っ引くぞっ!!」
どうやらこの店の店長さんらしい。
「は、はぁい!」
マルチナさんは急いで仕事に戻る……が。
そんな彼女にリナさんは意地悪そうな笑みを浮かべ、後ろから声をかけた。
「マルチナちゃあん。言いにくいんだけど、後ろ開いてるわよ? パカッと」
「えっ!?」
その言葉にマルチナさんはお皿を放り投げ、慌てて背中のファスナーを確認する。
無論、彼女の背中は見えておらず、リナさんの嘘だったのだが、問題はマルチナさんがとった行動。
普通、何の力も働いていない物体は重力に逆らえない。
当然、背中を見る為に放り投げたお皿は綺麗に弧を描き、落下した。
瞬間。
ガシャーンっ!
と、けたたましい音が店内に響き渡る。
「ぁあっ!? 騙したわねっ!?」
しかし彼女の受難はこれからが本番である。
それはマルチナさんの後ろに立つ、体格の良い店長さんの放つ怒気で容易に想像がついた。
「このマヌケッ!!」
「ああっ! ゴメンナサイ!!」
「どうしてくれようか? ちょっとコッチヘ来いっ!!」
「わたしの所為じゃないのにぃーっ!!」
ズルズルと引きずられ奥へと消えていくマルチナさんを尻目に、リナさんは脚を組み、カップ片手にほくそ笑む。
「あたしに手を出すとどうなるか思い知ったか」
「相変わらず敵に回すと恐い奴だな……」
額に汗しながら呟くゼルガディスさん。
けれど彼女はそんな事はお構いなしとばかりに。
そしてたった今、自らが陥れたマルチナさんを知らないとばかりに、前向きな発言を述べる。
「さて、その異界黙示録の完全なる写本って言うの、拝みに行こうじゃないのよ!」
と、紅い瞳を輝かせて。
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