「まぁ……皆さんの役には立たないと思いますが……」
完全なる写本が眠る神殿に来た私達。
その扉を前に、ゼロスはそう、ぼやいた。
しかしここまで来た以上、引き返すなんて選択肢はリナさんには無い。
もちろん私にも。
それを肌身で感じたゼロスはやれやれ……と、どこか諦めにも似た様子で、そっとその扉を押し開けた。
その途端。
暗かった神殿に光が差し、眩しさに私は目を細める。
そこには───青空と砂丘がどこまでも続く空間が広がっていた。
「中はいい天気だなぁ」
「建物なのにどうして?」
ガウリイさんとアメリアさんが口々に感想を述べると、リナさんが別の空間である事を示唆する。
「で、写本はどこにあると言うんだ」
辺りを見渡しても延々と空と砂漠が続いているのみ。
そんな状況に、ゼルガディスさんが訝しげに問い掛けた。
もっとも、この情報をくれたのはゼロス。
もしかしたらゼルガディスさんは、ガセネタじゃないのかと疑っているのかもしれない。
「直ぐにお目にかけますよ」
ゼロスはそんな彼を意に介す事なく告げると、歩みを進め、ある地点で立ち止まった。
不思議に思うその内にも、ゼロスがおもむろに手をかざすと、その場から一つの石版がせり上がってくる。
それを見てリナさん達は石版に駆け寄った。
「これが……」
「完全なる」
「異界黙示録の写本かっ!?」
石版を前に歓喜の声を上げる彼女達。
「これのどこがあたし達の役に立たないって言うのよっ!? 立派なもんじゃない!」
「これで中身が完全なら言うこと無しだ」
ゼルガディスさんが石版に触れながら、たっぷりとトゲを含んで呟く。
今まで散々ハズレを引いてきたからか、猜疑心が拭えないのだろう。
対してゼロスは、いつもの笑みを浮かべたまま、さらりと答えた。
「完全なのは保証します。ただし、コレが読めればの話ですが……」
「えっ!?」
ゼロスの意味ありげな物言いに、リナさんが慌てて石版を見やる。
そこには書かれていたのは───。
「ん……? コレ、文字じゃないっ!?」
「何っ!?」
驚きも束の間。
突如として地面が揺れ動き、かと思うと目の前の石版と同じものが列を成して現れた。
それもとてつもない量の石版が……。
「どうなってんだ? これ……」
「無限とも言われる異界黙示録の知識の完全なるコピーな訳ですから、石版もこれまた限りなく無限にある訳です」
ガウリイさんの発した疑問に、ゼロスは淡々と説明を口にする。
「その内容も暗号になっていて直ぐには読めない上に、暗号を解く方法を見つけたとしても、どこに何が書かれているか分からないもんですから、目当ての情報を見つけるまでにどれ位かかるか……」
運がよければ直ぐに見つかるでしょうけれど、運が悪ければ一生見つからないって事も。
そう最後に結ばれた内容に、リナさんはガックリと肩を落とした。
「そうなのね……そういう事なのね……」
なるほど……。
ゼロスが再三「役に立たない」と言っていた意味がようやく理解できた。
人の身でこれを解読、読破する事は無謀に近い。
と言うよりむしろ不可能である。
いくらリナさんでもそれを解読しようなどとは思わないだろう……。
「やったろうじゃないのっ!」
それならば別の方法を探した方が……って、
「……ぇ?」
「こうなったら意地でも魔族を倒す方法が書かれた石版を見付けて、解読したろーじゃないっ!!」
「本気ですかっ!? リナさん」
「もちろんよっ! 頼りにしてるわよ、ユウ♪」
意気込むリナさんにウィンクされてしまえば、もはや『NO』とは言えない。
それでも縋る思いでゼロスを見やる。
が、彼は溜め息を吐きながら肩を竦めてみせただけだった。
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