「どうやらこの変な記号には、磁石を動かす力があるみたい」
「何かの言葉を、その力の大小が表しているのかもしれんな」
「多分ね」
石版を前に、方位磁石を用いて解析するリナさんとゼルガディスさん。
その声は真剣そのもの。
ちなみに頭脳労働に向かないガウリイさんは、辺りの探索係。
高い場所の好きなアメリアさんは石版の上に陣取り、双眼鏡で観察中である。
「アメリア、何か見付かった?」
「……今のところは」
リナさんが尋ねるも、色よい返事は返って来ない。
「あーもう! 何かキーワードの一つでも見つかればっ!」
「まぁ、誰にも読めない記録ほど意味の無いものはありませんからねぇ。必ず何か方法はあるはずなんですが……」
先程から何の進展も無くイライラするリナさんに対し、ゼロスはいけしゃあしゃあと言ってのけた。
その様子から手伝う素振りは見受けられない。
まぁ、ゼロスらしいと言えばらしいけど。
そんな彼らから少し離れた場所で、私は石版に凭れて座りながら空を見上げていた。
言ってしまえば完全なサボりである。
そんな私に気付いたゼロスはコチラに近付き、声をかけてきた。
むろん、リナさん達には聞こえない程度の声で。
「良いんですか? 解読しなくて……」
「んー? 私が見たって解読は無理でしょう? 無駄な事はしない主義なの」
ちゃっかり私の隣で休憩しているゼロスにそう答えると、
「ただ単に面倒臭がりなだけかと思いますが……」
と、苦笑混じりに言われてしまった。
あながち間違いじゃ無いだけに返答しにくい。
だが、文字ですらない棒線状の記号を解読しようなどとは到底思えなかった。
それにゼロスが言うように、例え解読出来ても欲しい情報を探すのはこれまた根気のいる話。
正直、そんな暇は私には無い……とは言わないが、やる気が無いのは事実。
「でも良いんですか? ユウさんも異界黙示録で知りたい事があるのでは?」
「ん〜? まぁ、そうなんだけど……ね」
歯切れ悪く答える私に、ゼロスは隙なく窺っている。
おそらくは私の目的を探っているのだろうが……。
「覚えてたんだ、私の目的」
「そりゃあ、詐欺まがいな手段で僕から情報を手に入れようとしてた人なんて、そうそういませんから」
「……人の事は言えないと思うけど」
笑顔の彼に私は肩を竦め、溜め息を吐いた。
結局あの時はお互いに核心に触れる事が出来なかったのだから。
「それで、どうするんです? 確かユウさんの目的は『世界を見てまわる事』。
それともう一つ。異界黙示録関係のコチラがユウさんの本当の目的……ですよね?」
「まぁ……ね」
普段は割りと淡泊なのに、こういうところは抜け目がないなぁと感心しつつ、私もそろそろ自分の仕事を全うするために、動くことにした。
いつまでも───このまま旅を続ける訳にもいかないし。
そんな想いを抱きながら、まるで世間話をするかのように、淡々とゼロスに切り出す。
「……ところでゼロス」
「何です?」
「取引しない?」
「…………はい?」
何の感慨もなく言う私の台詞は、ゼロスにとっては突拍子も無い事だったのだろう。
まん丸く目を見開いて固まっていたりする。
そんな彼を見ながら、私は次の言葉を紡ぐ。
「私は自分の目的を話す。ゼロスはその目的が書かれた石版の内容を話す。面白がりなゼロスには悪い話じゃないと思うけど?」
「はぁ……そう言われましても。確かにユウさんの目的には興味がありますが……
解読しなければ読めない石版の内容を、どうして僕がユウさんに教えることが出来るんです?」
「だってゼロスは石版が読めるでしょ?」
意図も簡単に告げたその言葉。
それにゼロスは絶句し、固まった。
が、敵もさる者。
それは一瞬の事で、次の瞬間にはいつもの余裕を纏ったゼロスがそこに居た。
「……何故、そう思うんです?」
「何故って……じゃあ逆に質問するけど、この写本が完全である事は確かなのよね?」
「…………」
しかし彼は答えない。
否、答えられなかったのだ。
頭の良い彼の事。
念を押すその一言で、私が言わんとしている事に気付いたのだろう。
そしてその事実をより明瞭にする為に、私は続ける。
「中身が読めなければ、コレが完全かどうかなんてわからない」
「…………」
「ましてや暗号になってるなんて、解読出来なければ知り得ない」
よって、ゼロスは石版を読める。
「でしょ?」
「…………降参です」
これ以上の黙秘は無意味。
ゼロスは苦笑混じりに両手を上げて、そう白状したのだった。
ALICE+