「やはりユウさんは一筋縄ではいきませんねぇ……まぁ、僕としてはその方が面白いですけど」
「人を暇つぶしの道具にしないでくれる」
「道具だなんてとんでもない。実に興味深い対象ですよ」
「……興味本位じゃなければ良いけど」
ニッコリと笑うゼロスに、私は深く息を吐いた。
何か、前にもこんなやり取りをしたような……。
とまぁ……それはさておき。
まだ彼の答えを聞いていない。
私は投げやり気味にゼロスに尋ねた。
「それでどうする?」
「と、その前に疑問なんですが。どうしてリナさん達に僕が石版を読めるとおっしゃらなかったんですか?」
「んー?」
どうして。
どうして……?
そう言えばどうしてだろう?
最初から分かっていたのに。
何故かリナさん達に言う気にはなれなかった。
いや、より正確に述べるのであれば『言うつもりは無かった』。
ゼロスが写本を読める事を。
確かな情報が手に入るであろうことを。
……どうして。
「強いて言うなら、ゼロスを過労死させたくなかったから……かな?」
「それは……ありがとうございます」
自分でも良く分からない感情に、私は適当な言葉を呟いた。
これ以上考えていたら、訳の分からない焦燥感に押しつぶされてしまいそうで。
引き返せなくなりそうで。
すぐ隣を見れば、ゼロスがあはは……と渇いた笑みを浮かべていた。
きっとリナさんにこき使われる図を、簡単に想像出来たのだろう。
私はそっと息を吐き、とその時。
突如アメリアさんの声が上がった。
「お婆さんが一人見えます!」
こんな砂漠にお婆さん?
そう不思議に思いつつも、私達は何があっても良いように一旦リナさん達の元へと歩みよる。
「……誰もいないじゃない」
「確かに居たんですけど……」
呟くアメリアさんに、リナさんはふと方位磁石へと視線を落とした。
すると、
「ん……?」
「……揺れてますね」
「どういう事……?」
「こんなおかしな場所だけに、もしかして幽霊だったりしてな」
「やめてくださいよ……」
普段冗談を言わないゼルガディスさんのその言葉に、アメリアさんが恐がる。
とは言っても、彼女も巫女の一人。
幽霊の一人や二人、浄化するのはそう難しい事ではないはずなのだが……。
実物は大丈夫で、怖い話がダメと言うパターンだろうか?
そんな事を考えていると、突如───。
「どうかしましたかのぉ?」
『ひゃあぁあぁあーっ!?』
『目の前』に現れた一人の小柄なお婆さんに、リナさんとアメリアさんは悲鳴を上げて飛び退った。
かくいう私も驚きのあまり、声が出なかったりする。
一体いつの間に……?
「ほほほほ、驚かしてしまったかのぉ? こりゃすまなんだ……おや?」
笑みを浮かべて謝罪するお婆さん。
けれど飛びのいた拍子にガウリイさんへと抱き着いたリナさんを見て取ると、マジマジと二人を観察し始めた。
それに気付いたリナさんは赤面しつつ、咄嗟にガウリイさんを突き飛ばす。
憐れ……ガウリイさん。
「ほっほっほっほっ、お前さん方かのぉ? 写本が必要で来なすったお人達は」
「いかにも。おれ達は写本に用があって来たんだ」
「それじゃあ驚きなすったろうのぉ。これだけの量があるんだから厄介な事だで」
腰を折って目線を合わせるゼルガディスさんに、お婆さんは「ほっほっほっほっ」と笑う。
その姿からは害意は感じられないが……。
「そう言うお婆ちゃんは?」
「あたしかい? あたしはここの写本を管理しているアクアっちゅう婆さんだで」
「……アクア……」
「婆さん……」
リナさんとガウリイさんが呟いた後、私達は無言のまま顔を合わせた。
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