「そうかい、あの魔竜王ガーヴに狙われとるのかい。そりゃ大変だわのぉ……」
「まーね。でもだからってただ黙ってるのも性に合わないのよ」
石版への道すがら。
どうして魔族に対抗する術が知りたいのかと問うお婆さんに、リナさんは彼女らしい前向きな意見を交えて答えた。
そこには『生きたい』という、明確な意思がある。
「ま、いざって時は対抗する方法が無い訳でもないんだけど」
「ほぉ……?」
「だけど結構コレが物騒な方法なもんだから、何とかもう少し穏やかな方法が無いもんか探しているのよ」
「成る程のぉ」
生きたいと願うリナさん。
しかし、そんな彼女が対抗できる手段は『生』とは対極にある虚無の魔法───重破斬だった。
……リナさんは言った。
それは『金色の魔王』の力を借りて放つ、最強呪文だと。
リナさんは言った。
術の制御に失敗すれば、自分の命はないと。
しかし、彼女は知らない。
『あの人』の本当の姿を。
彼女はまだ気付いていない。
『母』の真実に。
『世界』の理に。
「でもお婆ちゃんもよく魔竜王ガーヴなんて知ってるわね?」
「そ、そうかい? 長い間写本の管理なんぞやってると、自然にそういう事は覚えちまうもんだからねぇ」
「ふーん、そんなもんなの」
……どうしようか。
リナさん達の後ろを歩いていた私は、彼女達の会話を耳にしながら、考えていた。
このまま行けば、確実に私の目的は達成される。
でも……。
このままだと……。
「……わっ!?」
前をよく見てなかった私は、立ち止まったゼロスに気付かず、ぼふっと彼の背中に顔面をぶつけた。
「大丈夫ですか?」
「あ……うん。ごめん……」
意外に痛い……かも。
片手で顔を押さえながらゼロスに謝ると、彼はスッと手を出した。
「?」
「お手をどうぞ」
訝る私に、ゼロスは微笑む。
「ユウさん危なっかしいので、手、繋ぎましょう」
「……今のは考え事してただけで」
「まぁまぁ、そう言わずに」
「いや、その気持ちだけで十分だから」
いくら最後尾を歩いているからとはいえ、手を繋いで引率されるのは嫌だ。
私は丁重にお断りをして、リナさん達の後を追う。
「ところで、ユウさん」
「んー?」
「水竜王のレシピなんて知ってどうするんですか?」
「作って食べるよ」
多分、『あの人』が。
「…………」
「もしかして、まだ疑ってるの?」
「あ、いえ。そういう訳ではなくて」
「あんまりうたぐり深いとモテないよ?」
「だから違うんですってば!」
慌てるゼロスに、私は口の端を持ち上げ言う。
「冗談だよ……それにしても、どこまで歩くんだろうね?」
「疲れましたか?」
「少し……」
旅慣れしているリナさん達は苦にする様子もなく進んでいるが、足元が砂と言うこともあり、足を取られ歩きにくい事この上ない。
それは余計に体力を消費させ、疲労は確実に溜まっていた。
───そんな折。
「運んで差し上げましょうか?」
「ぇ?」
「お疲れなのでしょう?」
………………。
両手を広げ、にこやかに佇むゼロス。
「…………いえ、頑張ります」
「遠慮はいりませんよ?」
「いや……うん。その申し出は有り難いけど、でもやっぱり遠慮しとく」
「そうですか? まぁ、大分暗くなってきましたし、そろそろ休む準備を始めるとは思いますが……」
言われて空を見上げると、異空間なのにも関わらず、星が瞬き始めていた。
この分だとゼロスの言う通り、幾ばくもせずに野宿になることだろう。
私は一つ溜め息を吐くと、再び脚に力を込め、歩きだした。
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