「リナさん、どちらへ?」
「ユウっ!?」
元々そんなに離れた場所にいた訳ではなかったので、リナさん達には直ぐに追い付く事が出来、私は彼女へと声をかけた。
「夜のお散歩ですか?」
「ん? まぁ、そんなとこ。お婆ちゃんがついて来いってさ。夜更かしは美容の大敵だってのに……」
ブツブツと文句を言うリナさんに苦笑しつつ、私はアクアさんへ向き直り、微笑み尋ねる。
「ご一緒しても?」
「あぁ、構わないよ」
「で? 一体ドコまで行こうってのよ?」
「なぁに、直ぐそこの泉だで」
…………泉?
その意外な答えに、私とリナさんは顔を見合わせた。
まさか水浴びしに行くとか……?
そう思いつつも私達はアクアさんについて行き───程なくして。
目の前にはアクアさんの言った通り、大きな泉が現れた。
泉は夜の闇の中で黒々とした表情を見せ、一瞬その闇に吸い込まれそうな錯覚に陥る。
アクアさんはそのまま歩みを進めると、泉の淵で立ち止まり、両手を水面にかざして言葉を紡ぎ始めた。
「我が意思を伝える黒き石版よ、我が意思に従え……」
その言葉が紡ぎ出されるやいなや、泉に光の波紋が広がり、黒い石版が水面から迫り上がってくる。
アクアさんはそれを指し示しながら、リナさんへと語りかけた。
「さぁ、お前さんに見せたかったのはこの写本じゃ」
「これって……」
「こうして写本に手を触れてみなされ」
言われるがままリナさんは手を伸ばし───その手が石版に触れた途端。
石版から目映い光が放たれる。
「きゃあっ!?」
「……っ!」
だが、それも数瞬の事。
再び辺りを闇が支配した時には、石版に手をついたまま呆然と佇むリナさんがいた。
「何よこれ……」
「あるいは有り得たかもしれない、もう一つの過去」
「もう一つの過去……」
過去……?
リナさんとアクアさんの言葉に、私は辺りを見回した。
私にはただ石版に手をついているリナさんと、それを見守るアクアさんの姿しか見えていないのだが……。
どうやら彼女には石版を介して、別の物が見えているようだった。
しかし……。
何を見ているのかまでは分からないが、それが楽しい映像では無い事だけは確か。
リナさんが、アメリアさんやゼルガディスさん、そしてガウリイさんの名前を呼ぶ。
それは今にも崩れ落ちてしまいそうな程、悲痛な叫び声で。
「……っ」
「リナさん……」
全ての映像を見終わったのか、彼女は石版に手をついたまま、目の前を見つめていた。
束の間、静寂が辺りを覆い、アクアさんが神妙な面持ちで口火を切る。
「───……今のが重破斬の暴走。異界黙示録が教える、もう一つの結末じゃ」
それを聞いたリナさんの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
私は彼女に近づき、その背にそっと手を添える。
触れた瞬間リナさんはビクッと身を強張らせ、息を詰めて何かに耐えるように手を握り締めていたが、やがて彼女はポツリと意を決したように呟いた。
「何でこんなものあたしに見せたのよ……」
「お前さん方にどんな運命が待っているか、それはあたしにも分からない。だけど、出来る事なら重破斬だけは使わん方がえぇ……」
なる程……。
きっとアクアさんは昼間のリナさんとの会話から全てを悟ったのだろう。
彼女の言った対抗する手段から、その危険性において全て。
だから重破斬がどれ程危ない術なのかを、写本を通して彼女に伝えた。
あの術は───人の身には過ぎるもの。
それ程までに危険な代物だから。
「これからお前さん方の前に立つ者共は、人の身を持って戦うにはあまりにも強大なもの。お前さん方に残された手立ては少ない」
アクアさんは諭すような口調でリナさんに言い聞かせる。
「だが、その中で最悪の選択をしてはならない。そして、それこそが恐らくは……」
「ならば大人しく死を迎えると言うのはどうだっ!?」
突如、その声は響いた。
かと思うと急に浮遊感を感じ、次の瞬間には爆音が辺りを支配する。
ドゴオォォンッ!!
音と共に爆風が肌に吹き付けた。
一瞬、息が詰まる。
そんな中、状況を把握したリナさんが、私達を助けてくれた者の名を呼んだ。
「ゼロスッ!?」
そう。
私達は彼の手によって、今の爆発から免れることが出来たのだ。
「お喋りは後です」
「また邪魔をする気か! ゼロスッ!!」
そして私達を攻撃した人物───否。
魔族の正体は、以前目にした事のある者だった。
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