どごぉおおんっ!
「逃げようったって無駄だぜ!」
その圧倒的な力を見せ付けながら、魔竜王は嘲笑う。
今の一撃もゼロスが前に出て防いでくれなかったら、ただでは済まなかっただろう。
そんな状況下で。
爆風が収まると、ゼロスは笑みさえ浮かべて魔竜王に話し掛けた。
「魔竜王ガーヴ直々のお出ましとは……今までどんなに挑発しても出てこなかったのに……」
「おめぇの挑発ごときでオレがのこのこ出てくる訳にはいかなかったが、この神殿の中ならば話は別だからな」
一体何の話をしているのか……。
私とリナさんは話が見えず、眉を顰めた。
しかし、この場で一人。
ただ一人。
アクアさんだけが、彼等の会話を理解していた。
「そうかい。異界黙示録の写本が取り巻くこの神殿の中なら、冥王の目は届かない」
冥王……?
って、まさか魔王の腹心の!?
その名前に、私とリナさんは言葉を失った。
そして、その見解は的を射ていたのだろう。
アクアさんの言葉に、ゼロスは「あぁ……なるほど」と頷く。
瞳を開け、相手を侮蔑するかのような眼差しで。
「僕としたことが迂闊でしたよ。確かにここならば冥王様の目も届かない。今のあなたにとっては、冥王様が一番厄介な存在ですからねぇ……魔竜王……ガーヴ!」
「ちっ、『様』が抜けてるぜ、ゼロス。ガーヴ『様』だろ?」
ゼロスはやおら大袈裟に跪くと、「それは失礼を」と、言葉だけは丁寧に。
しかし、馬鹿にした雰囲気は隠しもせずに言ってのけた。
そんな二人のやり取りを見て、リナさんはゼロスに問い掛ける。
「どういう事よっ!? 冥王がガーヴとやり合ってるって!?」
冥王と魔竜王。
ゼロスの話を聞く限りでは、同じシャブラニグドゥの腹心であるにもかかわらず、二人はいがみ合っているらしかった。
普通、魔族は創造主に絶対服従。
それなのに、何故───?
魔竜王は冥王に隠れて策を巡らせ、冥王はそれを潰そうとするのか?
チラリとゼロスを見れば、彼は額に汗しながら、答えに詰まっている。
───すると。
チャキ……。
魔竜王はリナさんの首に剣を突きつけ、そしてゼロスの代わりとでも言うように答えた。
「ふっはっはっはっはっ! 簡単な事さ。今のオレはシャブラニグドゥに反旗を翻した、裏切り者だからよ!」
「……っ」
唾を吐き捨て、好戦的な態度で魔竜王は言う。
「シャブラニグドゥのクソったれが居ねぇ今、一番厄介なのは冥王の野郎だ!」
「そういう訳です」
その向こうで手を広げ、笑顔で肩を竦めるゼロス。
リナさんが危険な状態にある以上、迂闊な行動は出来ない。
にもかかわらず、ゼロスは魔竜王を煽るような事を平気で言う。
「それにしても、千年程お目にかからなかった内に、随分とイメージがお変わりになりましたねぇ……? 魔竜王様?」
皮肉めいたその口調に、魔竜王は口の端を持ち上げ……───。
「そうか? 昔はもうちょい礼儀正しかったか?」
魔竜王はリナさんに突き付けていた剣を退け、
ドガッ!!
「っ!!」
刹那後にはゼロスに対して膝蹴りを喰らわせていた。
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