───もしかして。
彼は、リナさんを魔竜王の目からそらさせる為にわざとあんな挑発をしたのだろうか……?
自分に注意を向けさせる為に。
思う内にも魔竜王の一方的な攻撃は続き───やがて。
カランカラン……。
と、乾いた音を立てながら、ゼロスが手にしていた錫杖が落ち、彼自身もまた地にうずくまった。
本当は直ぐにでも駆け付けたかったのだが、冥王と魔竜王のいさかいに巻き込まれていると知って動けないでいるリナさんも放って置けない。
「さてさて、貴様には聞いておかなきゃならねぇ事もある。貴様に命令を出している冥王……フィブリゾの野郎が何を企んでいるのかをなぁ?」
地に伏せるゼロスに、魔竜王は余裕の表情で尋ねた。
その事から、いかに魔竜王が強いのかを窺わせる。
そんな中。
傷つき、くず折れた状態にもかかわらず、ゼロスは弱弱しい笑みを浮かべて答えた。
「それはもちろん……あなた方がアトラスシティやセイルーンを裏から支配しようと───ぐッ……!」
「そんな事はわかってるさ! だがな、それだけじゃ貴様の行動は説明がつかねぇだろう? あんな女を連れ歩かせて、冥王の奴は何を企んでいやがんだ? ぁあ?」
答えるゼロスの頭を踏み付け、怒りをあらわにした魔竜王はその後、彼の胸ぐらを掴み、力任せに引き寄せ尋ねる。
あまりの事の大きさに愕然としているリナさんを視線で指し示しながら。
「手間かけさせんなよ。このままひねり殺してやってもいいんだぜ?」
「そうは言われましても……僕もヘルマスター様からは詳しい事は聞いてないんですよ」
痛みに堪えながらも、笑顔を崩さないゼロス。
その様子を見た魔竜王は不敵な笑みを浮かべ───。
「ふっ、ならば死、あるのみだな!!」
言って胸ぐらを掴んでいた手を離すと同時に、ゼロスを殴りつけた。
一撃ニ撃とゼロスはなすがままに打たれ、反撃をする余裕すら無い。
「ぐっ……!!」
このままじゃ……。
このままじゃっ───!
「……リナさんや」
未だ動けずにいるリナさんを心配したアクアさんの声が聞こえる。
「ぐぁ……っ!!」
私は呪文を紡ぎながら立ち上がり───と、その時。
横手から、声が上がった。
「……ちょっと待ちなさいよ、おっさん!」
「ぁあ?」
「魔竜烈火咆!」
顔を上げ、瞳に光を宿したリナさんの力ある言葉を皮切りに、空を行く業火の帯がガーヴに向かって突き進む……───が、しかし。
それは当たる直前であっさり防がれた。
まぁ……それもそのはず。
そもそも魔竜烈火咆は名前の通り、魔竜王ガーヴの力を借りて打ち出す術。
それが魔竜王に効くはずが無いのだ。
それは本人にお前を殺すのを手伝ってくれという、無意味な呼びかけに他ならないのだから。
「ふっふっふっふっ……何の冗談だ?」
そう、冗談の様な話。
にもかかわらずコレを使ったと言うことは、挑発以外の何ものでもない。
だが、今はそれで良い。
「た、助かりましたリナさん……」
今の一撃で魔竜王の手から逃れたゼロスが、彼女に礼を述べる。
「人が黙って見てりゃいい気になって! 弱い者いじめもいい加減にしてよねっ!」
「ふっふっふっふっ、弱い者いじめか? 貴様がどう思ってるかは知らんが、そのゼロスは強いぜ? そいつはオレ達シャブラニグドゥの腹心五人以外じゃ、並ぶ者のない程の力を持ってるぜ」
「いやぁ、それ程のものじゃ……」
杖を支えに起き上がり、ゼロスは照れた様に謙遜した。
そこにすかさずリナさんが言う。
「へぇ〜? ゼロス、あなた結構上級の魔族だったのね?」
「はぁ……だ、あれ? バレてましたか、流石はリナさん」
まぁ、いつも神出鬼没に出たり消えたりしていたし、魔竜王に喧嘩を売るくらいだし。
勘の鋭いリナさんにバレないはずが無い。
……でも。
「て事は、やっぱり弱い者イジメなんじゃないですか? 腹心以外じゃ並ぶ者がいなくても、それがイコール腹心と同等にはならない訳ですし」
『………………』
その私の質問に。
素朴な疑問に。
ゼロスは───……否。
魔竜王すら固まり、気まずい沈黙が流れた。
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