───砂埃が晴れた後。
「ユウさん、僕の事は気にせず逃げてくださって良かったんですよ?」
そこに一人佇む私を見て、ゼロスが笑顔と困惑をない交ぜにした表情で、そう言った。
この場合、逃げた方が良かったのは確かだ。
ここに留まったからと言って、私に出来ることは何もない。
むしろゼロスの負担にしかならないだろう。
それが分かっていても、私は逃げる事が出来なかった。
そう、出来なかったのだ。
私は静かにゼロスに語りかける。
「そんな事……出来る訳ないじゃない」
「……ユウさん」
「逃げる手段もないのに」
「………………は?」
「知ってる? 翔封界って扱いが難しいって」
知識としては知っていた。
浮遊よりも移動速度が格段に速いことも。
便利な事も。
───しかし。
「使えないんだよね……昔、術の制御に失敗して以来、練習やめちゃったから」
「………………」
そう。
私がここに残ったのは、別にゼロスの事が心残りだったからという訳じゃない。
気にならない……という訳ではないが。
むしろ先程述べたように、私がいない方が何とでもなっただろう。
「だから逃げなかったというより、逃げられなかったって言う方が正しいかな」
「………………」
がっくり。
そう表現するのが一番適しているくらい肩を落としたゼロスは、しかし。
次の瞬間にはガバッと顔を上げ、私に詰め寄ってきた。
「ユウさぁんっ! ココは嘘でも僕が心配だったからとか、僕を一人に出来ないとか言うところでしょうっ!?」
涙すら浮かべ迫り来るゼロスに、私はたいした表情も浮かべぬまま、彼に問う。
「……嘘で良いの?」
「え?」
「ゼロスは嘘の心が欲しいの?」
「いえ……出来れば……」
「ゼロスを置いていくなんてできないわー。きゃー、ゼロス頑張ってー。あなたならどんな困難にも打ち勝てるって信じてるー」
「…………すみません。僕が悪かったです」
両手を胸の前で組んで、棒読みで並べると、彼は素直に謝った。
それを見ていた魔竜王は、私を見て笑う。
「くっくっくっ、面白れぇ姉ちゃんだな」
「お褒めにあずかり光栄です」
「くくっ、その度胸も大したもんだ。人間にしておくのは惜しいな」
………………どういう意味ですか、それ。
ツッコミたいのはやまやまだが───……しかし。
「……ユウ……と言ったか?」
私の思考は魔竜王の一言で凍りついた。
「どうだ、オレの仲間にならねぇか?」
そんな恐ろしい言葉を耳にして。
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