気付いた時には私はゼロスに抱えられ、おそらく精神世界と呼ばれる空間を移動していた。
「ユウさん、大丈夫ですか?」
「…………」
「ユウさん?」
「傷……大丈夫なの?」
「え……? あぁ、はい。この位なら少し休めば直ぐに治りますよ」
ニッコリ笑うゼロスに、私は憮然としたまま「そう……」と一言述べる。
───……良かった。
それが例え、私を心配させない為の言葉だったとしても、気休めだったとしても……。
張り詰めていたものが、スッと無くなり───、
「っ……」
急に襲いきた痛みに、私は眉を顰めた。
見れば手のひらが赤く滲んでいる。
「ユウさん、どうしたんですかっ!? それ……」
私の視線に気付いたゼロスが、それを見て驚きの声を上げた。
「……役立たずだった代償、かな」
「……ぇ?」
言って私は溜め息を吐く。
唯一私に出来た事は『何もしない事』。
唯一私に許された行動は『手を出さず、何もせず、そばで見ていること』。
今だって傷付いたゼロスに抱き抱えられて移動しているし……。
───……役立たず。
その言葉が、自分自身に重くのしかかり、苛立ちが募る。
すると、急に黙り込んだ私を見て、ゼロスは言った。
「……ユウさん……」
「…………」
「僕はユウさんが側に居てくれて心強かったですよ?」
見上げれば、彼は微笑んでいた。
こんな状況なのに。
いつもと変わらず。
「裏切るかもしれなかったのに?」
「……裏切りませんよ、ユウさんは」
「……随分自信満々ね? 根拠でもあるの?」
「最初はハラハラしましたけど……でもあんなに心配そうに見詰められたら、そんな気は微塵もないんだなって気づきます」
心配そう……?
そんな顔してたんだろうか……。
「普通なら気付かない、微々たる変化でしたけどね」
「…………そう」
「あの熱視線。あの時僕はユウさんからの愛を感じました♪」
すぱあぁぁぁんっ!
あまりな言葉に、私は手にしたスリッパで、ゼロスの顔をひっぱたく。
「感じないで下さい。心から」
「い……痛いです……」
「そんな訳ないでしょう」
魔族である彼に物理攻撃は効かない。
「と言うか……何でスリッパなんです?」
「リナさんに伝授してもらったんです」
「………………」
ハッキリきっぱり言い切ると、ゼロスは一瞬言葉を失い───けれど。
それも束の間、次の瞬間には「照れなくてもいいのに……」と呟いた。
「照れてません」
「でも心配はしてくれたんですよね?」
「…………」
「血が出るほど手を握り締めて」
言って彼は私の手を取ると、ちゅっと傷に口づけ───ニッコリ笑う。
ふと見れば、手のひらの傷は綺麗に治っていた。
「僕の身を案じてくれたんですよね?」
嬉しそうな、それでいてどこか、からかう様な雰囲気のゼロス。
それが面白くなくて、何故か不服で。
私はうつ向き呟いた。
「…………どと……」
「ぇ?」
「二度と心配なんかしてやるもんか」
───と。
あとがき
心配=こころくばり。
心配り=厚意。
厚意という名の好意。
ゆるやかに、ゆるやかに育つ想い───……。
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