「もう大丈夫だから」
言って私はゼロスに降ろしてもらい───。
けれど、手は繋がれたまま精神世界を行く。
先程の事があるので、本当は手を離したかったのだが……。
この場で人間が取り残されたら、あまり面白い事にはならないだろうと思い、それとは違う事を口にする。
「……リナさん達は無事ですかね?」
「きっと彼女達なら大丈夫ですよ。転んでもただで起きるような方々じゃありませんし」
先を行くゼロスに問うと、笑顔と共にそんな返事が返ってきた。
おそらく私を不安がらせないようにとの気遣いなのであろうが、その事が余計に私の心を重くする。
ゼロスだって、一杯一杯のはずなのに。
私は思わず眉を顰め───と、その時。
どこからともなく聞こえてきたのは、嘲笑を含んだセイグラムの声。
『ふっふっふっふっ……残念だったなぁ。ガーヴ様より少々力を頂いてな。お陰でそのくらいの術ならなんとでもなる』
間もなくそれは段々とクリアになっていき、次の瞬間には視界が開けると同時に私達はリナさん達の後ろに立っていた。
「くっ……!」
手ごわくなった敵を前に、リナさんが小さく呻く。
その雰囲気を壊すように、私はわざと明るい口調で軽口をたたいた。
「でもそれって、魔竜王の力が凄いだけで、貴方が凄い訳じゃないですよね」
「ユウっ!?」
突然口を挟んだ私に、リナさんが驚きの声を上げる。
それに対して私はニコリと微笑んでみせた。
それを見た彼女達は表情を明るくし───だが。
「こちらも苦戦している様ですね……」
「ゼロスさんっ!?」
「ゼロスっ!!」
傷付いた彼を目にして、アメリアさんとリナさんが驚愕する。
それも無理のない事だろう。
『あの』ゼロスが、膝をついているのだから。
「……ここは何とか逃げる事を考えた方が良いみたいですね」
確かに。
魔竜王もこの空間でなければ、手出しは出来ないみたいな事を言っていたし、それならば態勢を整える為に、一時退却するのも手だろう……。
───ただ。
そうそう上手く物事が運ぶとは限らない。
案の条、ゼロスの提案は泡と消えた。
「逃げられると思っているのか?」
「───ガーヴっ!?」
私達を追って来た魔竜王は、剣を担ぎながら、ゆったりとした足取りでコチラに近づいて来る。
それは私達を決して逃がさないと言う余裕からだろう。
「絶体絶命ってヤツか?」
ガウリイさんが剣を構えながら、ジャリッと砂を踏み締めた。
その隣で苦悶するリナさん。
彼らに並大抵の術が効かない以上、私達が打つ手は限られてくる。
すなわち『彼女』の力を借りた術を使うこと。
しかし、それにも制限がある。
神滅斬はリナさんしか使えず、一人を倒すのがやっと。
となると、残りは───。
「ダメ……重破斬だけは使えない……」
リナさんは呻く様に呟いた。
先程、重破斬の暴走する世界を見ていなければ迷うことなく解き放ったであろうそれも、今では使う事が躊躇われる。
「終わりだ」
ニヤリ、と魔竜王は笑い……───万事休すかと思われた、まさにその時。
「お待ちなさい!」
どこからともなく聞こえてきた、毅然とした声に嫌な予感が駆け抜ける。
だがいつまでも現実逃避はしてられない。
私は恐る恐る振り向き───その姿に、やっぱりかと諦めの溜め息を吐いた。
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