「漫才はおしまいかい……」
そんな中。
それまでコチラのやり取りを律儀に黙って見ていた魔竜王は、ゆっくりと立ち上がると、マルチナさんを前に威嚇する。
「何のつもりか知らんが、手加減はしねぇぞ姉ちゃん」
「っ!?」
凄まれ、怯むマルチナさん。
───けれど。
彼女はどこまで行っても彼女だった。
「……わ、我が魔人ゾアメルグスターの呪い、受けるがいいっ!!」
マルチナさんは震えながらも紋章を掲げ、言い放つ。
それを見て、魔竜王は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「ゾアメルグスター? どこの魔王だそりゃ」
紋章を手に祈り始めるマルチナさんに、剣が向けられる。
その姿は隙だらけで。
それまで呆気に取られ見ているだけになっていた私達の間に、再び緊張が走った。
「まずいっ!!」
「アメリア援護を!」
ガウリイさんが、リナさんが。
マルチナさんに向かって駆け出す。
私も急いで呪文を唱えるが───。
「逃げろ! マルチナっ!!」
魔竜王が剣を振り上げ、邪悪な笑みを深くした。
───……間に合わない!!
誰もがそう思った、次の瞬間。
「助けてっ! ゾアメルグスター様ぁっ!!」
そのマルチナさんの声に応えるように紋章が輝き、信じられないことが起きた。
───キィインっ!!
と甲高い音を響かせた紋章は、魔竜王の剣を受け止め、そして。
弾き返してしまったのだ。
「何っ!?」
驚き後ずさる魔竜王。
しかし驚いたのは彼だけではない。
「…………え?」
「あ?」
「……ど、どうなってんですか?」
マルチナさんとリナさんはマジマジと紋章を見つめ、アメリアさんが疑問を口にする。
あの魔竜王の攻撃を弾き返すだなんて、生半可な事じゃない。
ましてや偶像の産物である魔人の紋章に、そんな力があるとも思えない。
……思えない、のだが。
実際に目の前で起きてしまったのだから、それを否定しようも無い。
「ふっ! おほほほほほ! これぞ魔人ゾアメルグスター様のご加護よ!!」
「そうなのか?」
「知るかっ!!」
あまりといえばあんまりな展開に、皆が呆然としたのも束の間。
リナさんは嬉々とした表情でマルチナさん……否。
紋章を見て声を上げた。
「何にしても使えるわ! 皆、マルチナを盾にして逃げるわよ!!」
「おぅ!」
「ちっ……」
それに従い、ガウリイさん達はすかさず逃げに打って出た。
無理やり引っ張られているマルチナさんは、困惑の表情を浮かべているが、今はそれについてどうこう言っている暇は無い。
すぐ後ろにセイグラムが追いすがっているのだ。
「ちょ、ちょっと!!」
「逃がさん!」
追撃をかけるセイグラムの攻撃がリナさん達を襲う。
しかし、ゾアメルグスターの紋章は、それすらも弾いて見せた。
その様子を見ながら、私はそっと安堵の吐息をつく。
取りあえず、リナさん達の方は何とかなりそうである。
となると、問題は私達か。
そう思っているところに、未だ私の隣で膝をついているゼロスから声を掛けられた。
「ユウさん……逃げなくて良いんですか?」
私を危惧するその言葉と表情に、何だか呆れてしまう。
今は自分の事を優先すべきなのに。
こんな時まで私の事を気に掛けるなんて……。
そんなゼロスに対し、私はこれ以上心配を掛けないように、暢気な風を装って呟いた。
「……疲れちゃった」
「…………は?」
「昼間散々歩いて、夜は眠れなくて」
「…………はぁ」
「それに……」
逃げるリナさん達に、セイグラムが手当たり次第に魔法弾を解き放っている。
その流れ弾がコチラに飛んで来るのを見て、私は唱えた術を展開させた。
「虚霊障界」
精神世界面に干渉し、術者の周りに魔力を遮断する結界を張る術である。
それは魔法弾を空中で散らし、無へと帰した。
「それにコレくらいの事は出来るからね」
言って私は悪戯っぽく片目を瞑る。
魔竜王の目がリナさん達に向いている今、多少の干渉は許されるだろう。
再び襲い来た流れ弾も先程と同じ様に闇に葬りながら、私はリナさん達を見る。
セイグラムの攻撃をことごとく紋章で防ぎ、走り行く彼女達。
───ふと。
ずっと黙ってるアクアさんが気になり、そちらに視線を移してみた。
すると。
「………………」
「………………」
その光景に、無言で顔を見合わせる私とゼロス。
どういう訳か、アクアさんから緑色のオーラが立ち上っていたのだ。
一体何事……?
それについて尋ねようとした───まさにその時。
大地が。
震えた。
「……っ!?」
「ユウさんっ!」
ぐらつき倒れそうになった所をゼロスに支えられ、何とか事なきをえる。
何が起きたのか。
慌てて周りを見渡せば、魔竜王が膨大なエネルギー球を生み出しているのが見て取れた。
「ふん、わたしが追うまでもなさそうだ」
「……くっ」
それを見て姿を消すセイグラムに、呻くリナさん。
あんなのが来たら一溜まりもない。
「ゾアメルグスター様ぁっ!!」
マルチナさんは声を限りに叫んだ。
───その瞬間。
紋章が光り輝き、そこから現れたのは……───。
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