(3/9)

「漫才はおしまいかい……」



そんな中。

それまでコチラのやり取りを律儀に黙って見ていた魔竜王は、ゆっくりと立ち上がると、マルチナさんを前に威嚇する。



「何のつもりか知らんが、手加減はしねぇぞ姉ちゃん」

「っ!?」



凄まれ、(ひる)むマルチナさん。

───けれど。

彼女はどこまで行っても彼女だった。



「……わ、我が魔人ゾアメルグスターの呪い、受けるがいいっ!!」



マルチナさんは震えながらも紋章を掲げ、言い放つ。

それを見て、魔竜王は馬鹿にしたように鼻で笑った。



「ゾアメルグスター? どこの魔王だそりゃ」



紋章を手に祈り始めるマルチナさんに、剣が向けられる。

その姿は隙だらけで。

それまで呆気に取られ見ているだけになっていた私達の間に、再び緊張が走った。



「まずいっ!!」

「アメリア援護を!」



ガウリイさんが、リナさんが。

マルチナさんに向かって駆け出す。

私も急いで呪文を唱えるが───。



「逃げろ! マルチナっ!!」



魔竜王が剣を振り上げ、邪悪な笑みを深くした。

───……間に合わない!!

誰もがそう思った、次の瞬間。



「助けてっ! ゾアメルグスター様ぁっ!!」



そのマルチナさんの声に応えるように紋章が輝き、信じられないことが起きた。

───キィインっ!!

と甲高い音を響かせた紋章は、魔竜王の剣を受け止め、そして。

弾き返してしまったのだ。



「何っ!?」



驚き後ずさる魔竜王。

しかし驚いたのは彼だけではない。



「…………え?」

「あ?」

「……ど、どうなってんですか?」



マルチナさんとリナさんはマジマジと紋章を見つめ、アメリアさんが疑問を口にする。

あの魔竜王の攻撃を弾き返すだなんて、生半可な事じゃない。

ましてや偶像の産物である魔人の紋章に、そんな力があるとも思えない。

……思えない、のだが。

実際に目の前で起きてしまったのだから、それを否定しようも無い。



「ふっ! おほほほほほ! これぞ魔人ゾアメルグスター様のご加護よ!!」

「そうなのか?」

「知るかっ!!」



あまりといえばあんまりな展開に、皆が呆然としたのも束の間。

リナさんは嬉々とした表情でマルチナさん……否。

紋章を見て声を上げた。



「何にしても使えるわ! 皆、マルチナを盾にして逃げるわよ!!」

「おぅ!」

「ちっ……」



それに従い、ガウリイさん達はすかさず逃げに打って出た。

無理やり引っ張られているマルチナさんは、困惑の表情を浮かべているが、今はそれについてどうこう言っている暇は無い。

すぐ後ろにセイグラムが追いすがっているのだ。



「ちょ、ちょっと!!」

「逃がさん!」



追撃をかけるセイグラムの攻撃がリナさん達を襲う。

しかし、ゾアメルグスターの紋章は、それすらも弾いて見せた。

その様子を見ながら、私はそっと安堵の吐息をつく。

取りあえず、リナさん達の方は何とかなりそうである。

となると、問題は私達か。

そう思っているところに、未だ私の隣で膝をついているゼロスから声を掛けられた。



「ユウさん……逃げなくて良いんですか?」



私を危惧するその言葉と表情に、何だか呆れてしまう。

今は自分の事を優先すべきなのに。

こんな時まで私の事を気に掛けるなんて……。

そんなゼロスに対し、私はこれ以上心配を掛けないように、暢気な風を装って呟いた。



「……疲れちゃった」

「…………は?」

「昼間散々歩いて、夜は眠れなくて」

「…………はぁ」

「それに……」



逃げるリナさん達に、セイグラムが手当たり次第に魔法弾を解き放っている。

その流れ弾がコチラに飛んで来るのを見て、私は唱えた術を展開させた。



虚霊障界(グーム・エオン)



精神世界面(アストラル・サイド)に干渉し、術者の周りに魔力を遮断する結界を張る術である。

それは魔法弾を空中で散らし、無へと帰した。



「それにコレくらいの事は出来るからね」



言って私は悪戯っぽく片目を瞑る。

魔竜王の目がリナさん達に向いている今、多少の干渉は許されるだろう。

再び襲い来た流れ弾も先程と同じ様に闇に葬りながら、私はリナさん達を見る。

セイグラムの攻撃をことごとく紋章で防ぎ、走り行く彼女達。

───ふと。

ずっと黙ってるアクアさんが気になり、そちらに視線を移してみた。

すると。



「………………」

「………………」



その光景に、無言で顔を見合わせる私とゼロス。

どういう訳か、アクアさんから緑色のオーラが立ち上っていたのだ。

一体何事……?

それについて尋ねようとした───まさにその時。





大地が。

震えた。





「……っ!?」

「ユウさんっ!」



ぐらつき倒れそうになった所をゼロスに支えられ、何とか事なきをえる。

何が起きたのか。

慌てて周りを見渡せば、魔竜王が膨大なエネルギー球を生み出しているのが見て取れた。



「ふん、わたしが追うまでもなさそうだ」

「……くっ」



それを見て姿を消すセイグラムに、呻くリナさん。

あんなのが来たら一溜まりもない。



「ゾアメルグスター様ぁっ!!」



マルチナさんは声を限りに叫んだ。

───その瞬間。

紋章が光り輝き、そこから現れたのは……───。

<<>>
[ 戻る ]


ALICE+