───が、次の瞬間には、リナさんの絶叫がそれを吹き飛ばす。
「な、な、何やってんのよゼロスっ!」
私達を……。
というか、動きを封じられた私を見て、リナさんが顔を赤くしながら彼を問い詰める。
「アンタっ! 自分が何しようとしてるのか分かってんのっ!?」
「ぇ……や……何って……」
「いいからそこに直りなさいっ!!」
ビシッと指を突きつけ、お説教モード全開のリナさんは、有無を言わさずゼロスをベッドの上に正座させると、頭ごなしに叱りつけた。
そのお陰でようやく身動きが取れるようになった私は、そっと溜め息を吐く。
見ればゼロスは額に汗しながらも、困ったようにその言葉を聞いていた。
その姿には、先ほどの思い悩む様子は見受けられない。
その事に安堵していると、アメリアさんが駆けてきて、心配そうに顔を覗き込まれた。
「ユウさん大丈夫ですかっ!? ゼロスさんに変な事されませんでしたっ!?」
じっと窺う様なその視線が、不安そうにコチラを窺っている。
しかしながら、その言葉の意味を量りかね、私はくてんと首を傾げた。
「……変な事?」
「例えばジロジロ見られたり、あちこち触られたり……」
「あぁ、それなら……」
「あったんですかっ!?」
「えぇ……まぁ……」
深く考えもせずに事実を認めれば、何故かアメリアさんは私を抱きしめ、力強く宣言する。
その行為は、どこか私を慰めるかのようで……。
「もう大丈夫ですよ、ユウさんっ! わたし達が悪の手からユウさんを守ってみせますからねっ!」
「ったく、油断も隙もあったもんじゃないわね。ガーヴにやられた腹いせにユウを襲うなんてどうかしてるわよ!」
「え……いや、そんなつもりは……」
仁王立ちして怒るリナさんに、ゼロスは弁明しようと口を開く。
が───そんな折り。
「おい、何騒いでるんだ?」
「もう夜中だぜ?」
ノックも無しで扉を開け入ってきたのはゼルガディスさんと、ガウリイさん。
しかしそんな彼等の至極真っ当な苦言を、彼女達はまるで聞いちゃいなかった。
彼等の言葉をまるごと無視し、リナさん達は更に言い募る。
「言い訳なんて見苦しいですよっ!? ゼロスさん!」
「そうよっ! あたし達はアンタがユウに襲い掛かってるのを、この目でちゃんと見たんですからねっ!」
『………………』
その言葉で今しがた入って来たばかりのガウリイさん達にも事態が理解出来たらしい。
彼らは呆れた眼差しをゼロスに送り、溜め息をつくように言葉を吐き出す。
そこには、同情も共感も存在してはいなかった。
「お前なぁ……」
「いくら魔族でもやって良い事と、悪い事があるだろう……」
「誤解ですって」
額に汗してゼロスは言う。
けれど、それだけで納得するような彼女達ではなかった。
「何が誤解ですかっ! 夜遅くに婦女子の部屋に忍び込んでおいて! これを悪と言わずに何と呼びますっ!!」
「忍び込んだなんて人聞きの悪い。ユウさんはちゃんと僕に気付いてましたよ?」
「じゃあ同意の上で部屋に入ったんですか?」
「ぇ……?」
「どうなんですっ!?」
「……いやぁ……それは……」
あはは……と笑いながら頬を掻くゼロスに、アメリアさんは「ほらごらんなさいっ!」と息巻く。
……まぁ、実際問題、彼が無断で部屋に入り込んだのはこれが初めてではない。
今までに何度もあるし、だからと言って、それが嫌だと思った事も特には無い。
が、それを言ったところで彼女達の怒りが治まるとは思えなかったし、何より説明するのが面倒だった。
先程からゼロスに散々言っているが、私の眠たさはとっくにピークを過ぎている。
ともすれば、この喧騒が心地よくもあった。
安心すら覚える程だ。
それは容易に私の思考を奪い去り……。
「同意も無しに勝手に上がり込んで乱暴するなんて……見損ないましたよっ! ゼロスさんっ!!」
「乱暴って、あれは流れ的に……それにユウさんだって嫌がってませんでしたし……ねぇ、ユウさん?」
「………………」
「ユウさん……?」
「………………」
「もしもーし?」
「………………」
「起きてますかぁ?」
「………………」
『……………………』
「これは……完全に寝てるわね」
「………………」
「……間違いなく寝てるな」
「………………」
「……完璧に寝てますね」
「………………」
「……気持ち良さそうに寝てるなぁ」
「そんなっ!? それじゃあ僕の立場はどうなるんですかっ!」
「んなもんは無い!」
「納得いきませんっ! こうなればユウさんに目覚めのキスを……」
「するなあぁぁーーーっ!!」
リナさん達の騒ぐ声。
でもそんなのが気にならないくらいの睡魔に襲われ、彼女達の声を遠くに聞きながら……───。
私の意識は、闇へと沈んだ。
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