───明くる日。
起きた早々『ゼロスに半径1m以上近づかないことっ!』と言い立てられ、私は納得いかずに眉を顰めた。
近づいて来るのはゼロスの方なのに……。
そう反論するも、「ユウは危機感がなさ過ぎるっ!」と逆に怒られてしまう始末。
私は言われるがままに了承させられ……───それから数日。
何だこの状況は。
何だこの事態は。
何でこんな事になってるんだろう……?
そう思いながらも。
私は胸に飛び込んできた少年の頭を、優しく撫でてやった。
事の起こりは数時間前。
真の異界黙示録を求めてやって来たのは、カタート山脈の麓にある寂れた小さな町だった。
と、そこまでは良かったのだが……。
カタート山脈へ登るまでがまた難関だった。
というのも、そこまでの道のりが密林に覆われていて、上空から見渡した限り、自然の迷路と化した道は、案内無しでは抜けることができなさそうなくらい深かったのだ。
いつ狙われるか分からない状態では空から行くことも躊躇われ、地元の森に詳しい人に案内を頼もうにも、広場には人っ子一人いない状況。
まさにお手上げ。
どうしようもない。
そんな中、アメリアさんが助けを求めるように、これからの指示を仰いだ。
「どうします?」
「どうしますと言われても……どうしよっか?」
「こんな所でグズグズしてても始まらん。とりあえず行けるところまで行ってみよう」
「……そだね」
完全な異界黙示録が見つかるかもしれない。
その強い想いからか、行動することを優先させるゼルガディスさんに皆も同意し、移動し始めた───その時。
通りを飛び出し、どんっ!とリナさんにぶつかったのは、一人の少年だった。
「きゃああっ!?」
「うぁっ!」
突然の事に、受け身を取れなかったリナさんは尻餅をつきつつ、拳を振り上げて怒りをあらわにする。
「あ……たた。コラァッ! どこ見て歩いてんのよっ!?」
「あ、ご……ごめんよ」
「……っ!?」
しかし悪態つくものの、謝るその子を目にしてリナさんは一瞬言葉を失った。
としの頃なら11、2歳。
艶やかな黒髪の男の子は幼さと相まり、格好良いと言うより可愛いと言う方が適切に思えた。
そんな女の子と見まごうばかりの美少年に、リナさんは頬を染めて見とれたのだ。
「ちょっと急いでたものだから……大丈夫? お姉ちゃん」
「え? やぁ、コレくらいどーってこと無いよ、本当」
「良かった」
あはは……と、ごまかし笑いをする彼女。
どうやらこれ以上咎める気は無いらしい。
その事を察したのか、少年は立ち上がると笑顔を振りまき、再度謝罪の言葉を口にしてこの場を去ろうとした。
「本当にごめんよ……じゃあね!」
「あはははは……っあ!? わぁっ!!」
───しかし。
早々に走り去ろうとした少年の動きに合わせるように、リナさんが顔から地面に突っ伏した事により、それは敢え無く失敗に終わる。
ちゃりんちゃりん……と、少年が手にしていた財布から金貨が転げ落ちる音が、虚しく辺りに響き渡った。
その財布はリナさんの懐へと紐がくくりつけてあり……。
「……あ」
「はっ……泥棒?」
リナさんと男の子を見比べ、アメリアさんが呟く。
「まさか……可愛い顔して、あなた悪?」
「ぇ゛? これは……そのぉ……」
「いけないっ! 早く逃げろ坊主っ!」
言い淀む男の子に対し、ガウリイさんが慌てて警告した。
それに対し、ゼルガディスさんも重ねて告げる。
コチラは他人事だと思っているのか、ガウリイさんよりも落ち着いたものではあるが。
「そうだ。もたもたしてると命が無いぞ」
「ぇっ? えぇっ!?」
その二人の忠告に、訳が分からないとばかりに慌てふためく男の子。
けれど、その時間が命とりである。
「ってもう遅いわあっ!」
ぴがしゃあ!
と背後に稲妻を背負い立ち上がったリナさんの形相は、少年を固まらせるのに十分の迫力だった。
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