「とにかく! あなたが少しでも役に立つようなら、あたしが報酬としてお金を払ってあげる。それで良いわね?」
「お姉ちゃん!」
言ってウィンクするリナさん。
ほら、やっぱり何だかんだと優しい。
そう思いつつ、恥ずかしがったリナさんがこれ以上暴れないように、私は口をつぐんだ。
その隣では男の子が、ぱぁっと顔を輝かせている。
それに訝しんだガウリイさんが眉を顰めて彼女に問うた。
「おいリナ。お前一体何を企んで……」
「あんた、この村を出たいって言ってたわよね? だったら当然、森の抜け道くらいは知ってるんでしょう?」
「ああっ!」
「な〜るほど」
つまりリナさんは彼に道を教えてもらい、その報酬としてお金を払うと言っているのだ。
それなら私達にとっても、男の子にとっても悪い話じゃない。
それを聞いた男の子は、その大きな瞳をきょとんとさせた。
「森……? お姉ちゃん達どこへ行きたいの?」
「目指すはっ! カタート山脈に連なる、『竜たちの峰』なんですよっ!」
ビシッと明後日の方向に、無意味に胸を張って指を指すそのポーズと口調は、まさにアメリアさんの真似。
アメリアさんはジト目でリナさんを見るが、彼女は気にしちゃいなかった。
そんなリナさん達を見ながら少年は言う。
「竜たちの峰? あぁ、それなら……」
「知ってるのか!?」
「ぇ゛」
「教えて! 教えてっ! 教えろっ! 教えなさいっ! その場所をーっ!!」
詰め寄り尋ねる……否。
聞き出すリナさん達。
男の子は彼女達に詰め寄られ、逃げ腰になりながらコクンと小さく頷いた。
その様子を離れて見ていた私は、小さく息を吐きつつ後ろを振り返る。
そこにいたのは先程からずっと無言でコチラを見ていたゼロス。
「……何?」
「……いえ」
「言いたい事があるなら言えば?」
「……別に。無いです。言いたい事なんて……」
「……そう?」
ぼそぼそと話すゼロスに私は肩を竦め、イスに座る彼の隣に行って腰を下ろした。
すると彼の表情は、複雑な心境を表すかのように戸惑いをあらわにする。
「……良いんですか?」
「何が?」
「1m……無いですよ」
「そうね」
「……良いんですか?」
先程と同じ問い。
先程と同じ質問。
けれど先程の問いで感じた当惑はなく、替わりに嬉しそうな感情が込められている。
「良いんじゃない? リナさん達は今それどころじゃないし、私もゼロスと話したかったし」
「僕と……?」
言って彼は窺うような目で私を見た。
そんな彼を見詰めたまま、私は言葉を紡ぐ。
「気になったんでしょ?」
「……え?」
「私とあの男の子」
「いえ……そう言う訳では」
「食い入る様に見てたじゃない」
「それは……」
「羨ましかったとか?」
「…………」
意地悪く問えば、ゼロスは言葉に詰まり黙り込む。
私はそれを見て小さく息を吐き出すと、表情を崩すことなく彼に告げた。
「ゼロス……」
「…………」
「ロリコンについてはどうこう言わないけど、ショタはどうかと思うよ?」
「…………は?」
「魔族に性別は有って無いようなものだろうけど……」
「って何の話ですかっ! 何のっ!?」
「何ってゼロスと少年の儚い恋物語?」
「だから何でそうなるんですかっ!!」
首を傾げる私に、ゼロスの叫びが浴びせられる。
何かおかしな事を言っただろうか?
「だって恨めしそうに私を見てたじゃない。羨ましかったんでしょう?」
「違いますっ! 見てませんっ! 羨ましくもありませんっ!」
「そう?」
「そうですっ! 怖い事言わないで下さいっ!!」
肩で息するゼロスに、私はまぁまぁとなだめながら背をさする。
まさかこんなに怒るとは思わなかった。
ここ最近、話が出来なかったから、その溝を埋めようと思ったのだが……。
どうやら裏目に出てしまったようだ。
「そんな力一杯否定しなくても、冗談だってば」
「笑えませんっ! ユウさんの冗談は本気にしか聞こえないんですよっ!」
「ゴメンゴメン。悪かったってば」
「反省の色がないですっ!」
相当不服だったのか、軽く謝るくらいではゼロスの憤りは治まらず、尚も彼は食ってかかってくる。
ふと……。
こんな時はどうすれば良いかを教えてくれたのは誰だったか。
とりあえずものは試しと、やってみた。
「……ゴメンね?」
首を傾げ、なるべくしおらしく窺うように上目遣いになるように相手を見詰める。
すると。
「ぐ……」っと一瞬呻いたゼロスから、それ以上の反論は無かった。
どうやら『謝罪』は成功したようだ。
その事を、私は内心ほくそ笑んでいた。
それを。
その様子を。
冷たい視線で見る者が居るとも知らずに……───。
あとがき
隔たり。
見えない壁は、直ぐそこに。
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