「スッゴおぉぉいっ!」
「リナ……本当にいたぜ、ドラゴン!」
『竜たちの峰』の渓谷。
見渡せば金と黒のドラゴンの群れ。
それを見て驚くアメリアさんとガウリイさんの傍らで、私はぐったりと疲れ果てながら思う。
───……何も。
何も夜中に森を抜ける必要は無かったんじゃないかと。
ましてや全力疾走する必要は絶対に無かったはずだと───。
あの後、少年に地図を書いてもらったリナさんは彼に礼金を払い、そしてその地図を手に一目散に駆け出した。
それはもう、全速力で。
その後ろを余裕でついて行くガウリイさん達。
その更に後ろに私。
ぜぇはぁと息を切らし、それでも体力の無い私が彼らについて来れたのは最早奇跡に近い。
こうなるといっそ自分を褒めてあげたいくらいだ。
否、むしろ褒められるべきじゃないだろうか。
私はよくやった。
うん。
もう良いだろう。
これ以上のゴタゴタはご遠慮願おう。
そう思ってるのに。
心の底から思ってるのに。
厄介事は頼みもしないのにやってくる。
「わぁっ! ドラゴンがコッチに降りてきます!!」
アメリアさんの声に空を見上げれば、突如として突風が吹き荒れた。
ごぉうっと耳元を過ぎ去る風は、ドラゴンの羽ばたきによるもの。
ばさっ、ばさっと音をたてながら、やがて金色に輝く巨体は私達の目の前に鎮座した。
「───黄金竜! 竜族の中では小柄な方だけど、そのずば抜けた能力から『竜王』と呼ばれる最高種族だわっ!」
「でぇえっ!? アレで小さい方なのかっ!?」
リナさんの説明にガウリイさんがドラゴンを見上げる。
それに構わずドラゴンはジロッと睨むようにコチラを見て問うた。
『何の用だ? 人間達よ……』
───と。
その視線は、さすが竜王と呼ばれるだけあって重圧感がある。
その雰囲気に呑まれ、誰もが口を閉ざす中。
彼だけは、いつもの彼だった。
「だぁああっ!? 聞いたか今のっ! ドラゴンがしゃべったぞっ!?」
ドラゴンが話すところを初めて見たのか、人間の言葉をしゃべった事に、ガウリイさんは驚きの声を上げた。
ドラゴンを指さしリナさんを見やるその姿は、初めて見た物を興奮しながら母親に報告している子供に良く似ているように思う。
それに対し、リナさんはガックリと肩を落とすと「……しゃべったわよ」と、疲れたように呟いた。
特に黄金竜は様々な種族の言葉を解す事が出来るとされているのだ。
人間の言葉など、造作も無いだろう。
そんな中、ドラゴンはガウリイさんの驚きぶりが気に入ったらしく、彼に向かって話し掛けた。
『ほぉ……お前さんはドラゴンがしゃべるのが珍しいか』
「いやぁ、ドラゴンがしゃべるのなんて初めて聞いたもんだから……けど、人間の言葉なんてどうやって覚えたんだ?」
『ふっ、我ら竜族は永き時を生きるもの。時の流れを過ごすうち、戯れに他のもの達の言葉を操れるようにもなる』
彼の素朴な疑問に、ドラゴンは何でも無い事のように答える。
その言葉にガウリイさんはしばし考え、
「……つまり……『ヒマつぶしになんとなく覚えた』ってことか?」
『……ま……まぁ、そうとも言うな……』
噛み砕いて理解した彼に、黄金竜はきまり悪そうに肯定した。
というか、暇つぶしだったんだ……。
何か『竜王』の肩書きが音を立てて崩れ去っていくな……。
息を整えながら、内心ツッコむ私。
そんな事など露知らず、ガウリイさんはあっけらかんとした調子で言う。
「ま、しゃべれるなら話は早いや。リナ、このおっさんに事情を説明して、お目当てのものまで案内してもらおうぜ!」
『お……おっさんっ!?』
「ば、馬鹿っ! 竜王になんて口きいてんのよアンタはもうっ!!」
『おっさん』と呼ばれたことに衝撃を受けるドラゴン。
それに慌てたリナさんが、制裁と言う名の鉄拳でガウリイさんを黙らせた。
その後を、「あんまりガウリイさんの言うことは気にしないでくださいね」と額に汗しつつフォローするアメリアさん。
その様子を見たドラゴンは苦笑した。
『変わった奴らだ……ん?』
しかし。
一見和んだかに見えたその場は、彼によって崩れ去る。
「お久しぶりです、ミルガズィアさん」
錫杖を付き、一歩前に出たゼロスによって。
ALICE+