「…………」
「…………」
「…………」
ついて来るが良い。
そこまでは良かったのだが……。
この重い沈黙はいただけない。
まぁ、コチラにゼロスがいる以上、致し方ない事なのだが……。
しかし、ただでさえ疲れているのに、この状況は更にそれを増長させる。
───そんな延々黙々歩き続けるのにも、いい加減、嫌気がさしてきた頃。
この空気を変える為に、リナさんがミルガズィアさんへと話し掛けた。
「……で、ミルガズィアさん。異界黙示録のある場所ってのは遠いんですか?」
「なに、直ぐそこだ」
ブツリ。
そう表現するのが的確な程、話はあっさりと途切れた。
気まずい空気が否応なしに流れる。
しかし、それを打ち破ったのは意外にもミルガズィアさん本人だった。
「時に、人間の娘」
「は?」
「お前達、ゼロスが魔族と知り、何らかの策謀があると知りながら、何ゆえ奴と行動を共にしておる?」
「それは……今のところ、それに従うしか、あたしの生きる術がないからです。もちろん、冥王の考えてる事が、『世界平和』なんて事じゃない以上、あたしを殺そうとしている連中の言い分の方が正しいのかもしれない……けど、だからといって理由も分からないまま、おとなしく殺される程、悟った人間じゃありませんから……あたしは……」
リナさんは真っ直ぐ前を見据えて断言した。
それを聞いたミルガズィアさんは、彼女を見ることなく言う。
「生きている存在が、生き続けようとする事───それは当然の理だ。恥じる必要はない」
心なしか柔らかくなったその口調に、張り詰めていた空気も緩む。
ホッと息を吐き───その瞬間。
「あぁっ!!」
いきなり上がったガウリイさんの声に、皆の視線が集まった。
今度は一体何を言い出すんだろうか?
それを見守っていると、彼は真剣な面持ちでゼロスに問い掛ける。
「さっきからずっと『降魔戦争』ってのを思い出そうとしてたんだが、アレって確か、とことん大昔の話だろ?」
「はぁ……正確には千と十二年前の話ですが……それが何か?」
「……ゼロス、お前」
訝るゼロスの答えに、ガウリイさんは神妙な表情を浮かべる。
が、それも束の間。
いつものように、のほほんとした笑顔になると、さらっと爆弾を投下してくれた。
「むっちゃくちゃジジイだったんだな!」
どてっ!
その感想に、ミルガズィアさん以外の者は、まともにその場にずっこけた。
魔族は精神生命体。
力のある者は好きな姿をとる事ができる……のだが。
……さすがガウリイさん。
盛大なボケをかましてくれる。
「な、何をいきなり……」
身を起こしながら問うゼルガディスさんの言葉は、この場にいる全ての者を代表してのもの。
それに対しガウリイさんは、ゼロスの肩を慰めるように叩きながら、明るくフォローした。
「でも千十二歳以上の割りには若く見えるぜ! あんまり歳の事なんか気にするなよな、ゼロス!」
あっはっはっはっ、と軽快に笑う彼には、もはや誰もツッコめず。
さしものゼロスもどう対応して良いか分からなかったのだろう。
「……はぁ……ありがとうございます……」
と、呆れた顔でお礼を述べていたりする。
その様子を見ていたミルガズィアさんは、「はっはっはっはっ……」と声を立てて笑い出した。
「本当に変わった人間達だな。なる程、お前達なら魔族が何を企んでいようと案ずる事はなかろう」
「ミルガズィアさん」
「自らの目で真実を見極め、自らの信じた道を進むが良い。おのずと結果は出る、娘よ」
「はい!」
どうやら私達の事を、ある程度は認めてくれたらしい。
もちろん、ゼロスは論外だが。
そんなリナさんとミルガズィアさんの話を聞きながら、私はそっと自分の手のひらを見た。
…………真実……か。
一体、私の真実はどこにあるんだろうか?
このままじゃいけない。
このままでいたい。
相反する二つの想い。
異界黙示録を見たら最後。
この世界に留まる理由は無くなる。
無くなる、が……でも。
ココに居るべきでは無い。
それも分かっている。
ちゃんと分かっている。
私は瞑目すると、ぎゅっと手を握り締め───。
そして、意を決すると、顔を上げ、しっかりと前を見据えた。
自らを叱咤するように。
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