「まぁまぁ、リナさん。今はそれより異界黙示録が先ですよ」
「って、アンタがそれを言う?」
言いますとも。
今呪文を唱えられたら、間違いなく私も巻き添えになっていただろう状況下。
危険回避の為なら、余裕で自分の事は棚に追いやります。
そんな内心をひた隠し、私は彼女に言う。
「ま、制裁を加えるのは後でも出来ますし。ミルガズィアさんもお待たせしてますし」
「……でも本当に良いの?」
「何がです?」
「何がって、中は無限に広がる迷宮よ? 帰って来れなくなるかもしれないのよ?」
「ま、はぐれなきゃ大丈夫ですよ」
そう簡単に言ってのける私に対し、リナさんは何とも言えない表情を浮かべた。
けれど、それも束の間。
言っても引かないと分かったのか、彼女は短く溜め息を吐くと笑顔を見せる。
「ま、ユウが居てくれれば心強い事は確かね♪」
そんな私達を見ていたミルガズィアさんは、淡々と対応した。
「話はまとまったようだな」と言うとリナさんの手を取り、壁の奥へと消えていく。
それに私達も続こうとした───次の瞬間。
どごぉぉおおおおんっ!!
「───っ!?」
「きゃあああああっ!?」
突然響いた爆発音。
巻き起こる土煙。
慌てて辺りを見渡すと、そこには。
魔族───セイグラムの姿があった。
「セイグラムっ!?」
「行かせはせん! 貴様はここで死ぬのだっ!!」
驚きの声を上げたリナさんに向かって、セイグラムは魔力球を解き放つ。
こちらに向かい来た攻撃。
けれど、それはアメリアさんの術によって掻き消えた。
「炎裂壁!」
そして間髪入れずに、ゼルガディスさんとガウリイさんが迎え撃つ。
「魔皇霊斬っ!」
「光よっ!!」
更にゼロスがセイグラムの前に立ち塞がった。
彼はセイグラムを視界に入れながら、リナさんを異界黙示録の元へと急かす。
「貴方の相手はこの僕です。さぁ、リナさん! ここは僕に任せて今の内に早くっ!」
しかし、皆を残して行く事に抵抗のあるリナさんは躊躇いをみせた。
二の足を踏み、決断できずにいる。
それを見兼ねたミルガズィアさんは彼女の手を引き、促した。
「───あっ!」
「急げ。中に入れば魔族と言えどもそう簡単には追って来れまい」
「で、でも……」
壁の中へと引き込むミルガズィアさんに、リナさんは後ろ髪を引かれるようにガウリイさん達へと振り返る。
そんな彼女に、私は安心させるように言った。
「大丈夫ですって。今はゼロスさんもコチラの味方ですし、リナさんはリナさんがやるべき事をして、早くここに戻って来ましょう……ね?」
「う、うん。そう……よね」
コクンと神妙に頷くリナさんと手を繋ぎ、一歩足を踏み出す。
すると、その瞬間。
視線を感じて後ろを振り向けば、セイグラムと交戦中のゼロスと目が合った。
それは不安そうな笑顔で……。
そんな彼に、私は小さく微笑むと、ゼロスに向かって唇を動かした。
ただ一言、
『いってきます』
───と。
一瞬、虚を突かれたように驚くゼロスは───しかし。
ふんわりと顔を綻ばせると、彼もまた、声には出さずに、私を送り出してくれる。
それを見届けてから。
私は壁へと歩を進めた。
あとがき
───いってらっしゃい。
何の変哲も無いやり取り。
それが、この日。
ゼロスとの最後のやり取りになるとは、夢にも思わずに。
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