岩壁を通り抜けた次の瞬間───。
私達は、ぼんやりと明かりが灯ったその場所に佇んでいた。
辺りを見渡せば、燦然と輝くクリスタルの通路が続いている。
「ここに異界黙示録が……?」
「ここと共に異界黙示録が生まれたのは千年前……───降魔戦争の時だ。しっかり付いて来るのだぞ、人間よ。魔族でさえ、さ迷う空間だからな」
ミルガズィアさんの脅しともとれるその言葉。
それに、「はいはい、分かってますって」と軽く返事をして、リナさんは足を踏み出した。
「そんな間抜けな事……ん?」
が、しかし。
何かが気になったのか、彼女はおもむろに後ろを振り返る。
それに、つられる様に私も背後を見返し……思わず言葉に詰まってしまった。
何故なら、ココに居るはずの無い人物が、うつ伏せに倒れながらもリナさんの足首を掴んでいたのだ。
その状況に、私よりも早く硬直から解けたリナさんが、驚きの声を上げる。
「マルチナっ!! 何でアンタがっ……?」
そう。
それは、まごう事なきマルチナさんだった。
一体いつの間に……?
「ふっふっふっふっ! 逃がさないわよ、リナ!」
マルチナさんは、こんな状況下でも不敵な笑みを忘れない。
そして立ち上がりざま、明後日の方向にビシッと指を突き付けると、彼女は自分の野望を宣言した。
「異界黙示録はわたしが手に入れるわ! そしてゾアナ王国をこの手で復興させるのよっ!」
ていうか、まだ諦めてなかったんだ……マルチナさん。
流石、愛と執念の人。
そんな彼女を見て、リナさんは明らかに嫌な顔をした。
「マルチナぁ……邪魔しないでくれる?」
「何言ってるのっ! そっちこそ引っ込んでなさい!!」
「何ですってぇっ!?」
「何さっ!」
寄ると触ると喧嘩を始める彼女達。
私はそっと溜め息を吐いた。
全く、先が思いやられる。
けれど今はそれを悲嘆している暇は無い。
私は二人を仲裁しようと口を開き……───だが。
それより早く、ミルガズィアさんが宝石を宙に放り投げた。
「あっ!」
「宝石っ!!」
目ざとい彼女達は争いを止め、宝石を追い掛ける。
が、それは放物線を描いて虚空へと消えてしまう。
おそらくは別の空間へと、転移しただけなのだろうが……。
その事からも、ここが如何に不安定な空間なのかが窺えた。
ミルガズィアさんは無表情のまま、彼女達を諌める。
「おとなしくするんだ。ここはむしろ精神世界面に近い迷宮の空間。一歩間違えば、永遠にさ迷う事になる。それはわたしとて同じ事」
「ちょ、ちょっと! 間違っても迷ったりしないでよねっ」
それを聞いてリナさんは慌ててミルガズィアさんを見た。
それに対しミルガズィアさんは、表情暗く目線を反らす。
って、まさか……。
「……もう遅い……」
溜め息混じりに放たれたのは、重い、重い一言。
リナさんはショックのあまり地面に座り込み、マルチナさんは悲鳴を上げた。
かく言う私も、あまりの事に言葉が出てこない。
───と。
それを見た彼はくるりと背を向け、言うに事欠いて「冗談だ」と言い切った。
それを耳にしたリナさんは直ぐさま立ち直ると、ミルガズィアさんの背後から、「真面目に案内してよ。ね?」と、凄んでみせる。
……まぁ、何にせよ、冗談で良かった。
私は安堵の溜め息を吐くと、リナさんを軽くいなして歩みを進めるミルガズィアさんの後を追った。
どうやらまだまだ先は長いらしい……。
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