───千年もの昔。
降魔戦争の折。
ドラゴン一族の前に立ちはだかったのは、一人の魔族。
その魔族はドラゴンの大群を前に悠然と構え、ただ一度。
人差し指を横に薙いだ、たったそれだけの事で。
竜族をほとんど壊滅に追い込んだ。
「それが───あのゼロスだ」
………………。
「ゼロスだ……って……」
「たった一人で……ドラゴンの大群を───?」
まさか……あのゼロスが?
普段は飄々としている謎の神官が?
強いだろうとは思っていた。
実力では敵わないだろうとも思っていた。
……でも、まさか……それほどとは……。
さすが、獣神官の名は伊達じゃ無いと言うことか……。
「後ろ姿はゴキブリなのに……」
「って、あんたねぇ……」
「だって使いっパシリの魔族がそこまで強いだなんて思わないじゃないですか、普通」
呆れるリナさんにそう反論すると、彼女は「そりゃ、そうだけど……」と呟いた。
それを聞いていたミルガズィアさんは、疲れた口調で振り向きもせずに言う。
「それだけ魔族の力は強大と言うことだ」
「…………」
「魔族を相手に戦いを挑もうなどと考えるな。まして魔族に勝とうなど、無謀以外の何ものでもない」
「む、無謀って! そんなのやってみないとっ……」
あっさりと断言され、リナさんが言い募る。
───と、そこに響いたのは聞き覚えのある笑い声だった。
「はっはっはっ、相変わらずじゃのう」
───この声は……。
「……アクア婆ちゃんっ!?」
そう、私達の足元。
そこに居たのは、私達をココまで導いてくれたアクアお婆さん、その人だった。
アクアさんは嬉しそうに笑って、リナさん達を見やる。
「よう来たの、リナさんや。それと黄金竜、久しぶりじゃのう」
「言われた通り、はるばるやって来たわよ、アクア婆ちゃん。ねぇ、早くご褒美頂戴♪」
リナさんはお婆さんに視線を合わせる為にしゃがみ込むと、ニコニコ顔で異界黙示録を請求した。
しかし、アクアさん。
この人(?)も一筋縄ではいかないのは、ゼロスと同じである。
「まぁまぁ、折角来たんだからゆっくりお茶でもどうかのぉ?」
「いやあの、婆ちゃん……」
呑気なお婆さんのその言葉に、リナさんは苦笑した。
対して、私は手にしたものを見せながら、アクアさんに質問する。
「ストレートとミルクとレモン、どれが良いですか?」
「へ……?」
「そうじゃのぉ、どれがお勧めなんだい?」
「そうですねぇ、どれもお勧めですが……」
言って私は茶葉を取り出し、
「ってンな事やってる場合かっ!! 大体そのポットやカップどこから出したっ!? ドコからっ!!」
リナさんに突っ込まれ、私は「んー……」と視線をさ迷わせる。
そして。
「レモンティーにしましょうか。イライラを和らげる効果がありますし♪」
「質問に答えんかいっ!!」
スパンッ!
頭に走ったお馴染みのスリッパ攻撃。
私はあえなく撃沈した。
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