───そして。
それは不意に訪れた。
「ひゃっ!?」
突然後ろに引っ張られ、私の手が異界黙示録から遠ざかる。
───ぇ?
疑問符が頭に浮かんだ、その瞬間。
顔の横を赤い何かが横切り、リナさんを襲うべく突き進む。
危ないと思う暇もなく、ミルガズィアさんが彼女を引っ張り、その場から退かせ、アクアさんの杖が難無く無へと帰し事なきを得た。
それらはほんの一瞬の出来事で、直ぐには何が起きたのか理解出来なかった。
「ふはははははっ!」
混乱する中、頭上から聞こえる笑い声。
───この声は……まさか。
「また会えて嬉しいよ水竜王。そして、リナ=インバース」
「ガーヴっ!」
リナさんの声に慌てて後ろを振り向けば、そこには確かに魔竜王の姿があった。
どうやら私を引っ張ったのは彼だったらしい。
……だが、問題はそこではなく。
「よぉ。元気にしてたか? お嬢ちゃん」
「……お陰様で」
何故かガッシリとした魔竜王の片腕が、私を後ろから抱きしめ離さない。
その事を言及したいのは山々だけど、下手な対応は命取りになる。
そんな事を頭の片隅で考えつつ、短く返事を返せば、彼は口の端をニヤリと持ち上げた。
「それで? 少しは考えてくれたか?」
「……ぇ?」
「おいおい、仲間になるか考えておくって言ったじゃねーか」
『っ!?』
その言葉に、リナさん達が息を飲むのが分かった。
そう言えば、前に仲間にならないかと言われてたんだ。
あの時は次までに考えておくと答えて……。
「その様子じゃ、考えてねーみたいだな」
「いえ……考えてないと言うか……」
考えるまでも無かったと言うか。
「でも、例え私が仲間に入ったとしても、足手まといにしかなりませんよ?」
「ぁあ? ンなこと気にしてたのか?」
いや……気にはしてないけど。
穏便に断ろうとしている私をお構いなしに、彼はさして問題ないとばかりに続ける。
「言っただろう。オレはお前に興味があるんだ。言うなれば一目惚れってとこか?」
「一目惚れって、あんた魔族でしょーがっ!?」
野太い笑みで言った魔竜王に、リナさんが有り得ないとばかりに食ってかかる。
それに対し彼は馬鹿にしたような口調で言った。
「魔族としての特性の方が強いが、一応これでも人の身だ。そうおかしな話でもねーだろ? ん?」
まぁ……おかしくは無いかもしれないが……。
あまり歓迎できる状況でもない。
───……さて。
となると、これからどうしたものか。
下手に神経を逆なでするのは得策ではない。
というか彼の腕に捕われてる以上、魔竜王との直接対決は避けたい。
そうすると……まずは……。
思考を巡らせ、口を開きかけたその瞬間。
それよりも早く、アクアさんが緊張した面持ちで魔竜王へと話し掛けた。
「それにしてもよくココまで来られたのぉ」
「あぁ、探し出すのに結構骨が折れたがなぁ」
笑みさえ浮かべて答えた彼は、そのまま右手を突き出し、
「だからさっさと終わらせようぜっ!」
言ったと同時に、リナさんへと魔力球を解き放った。
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