ニナイテ(1/5)

一瞬、何が起きたのか分からなかった。



「御武運を……リナさん」



コチラを振り向き、微笑みを浮かべたユウは迷う事無く後ろへ地を蹴り、そして。



「ユウっ!?」



あたしが叫んだ時には、既にユウの姿は無かった。



「……ちょ、一体どうなってんのよっ!?」



何が起きたのか分からず、慌てて隣を仰ぎ見たあたしに、ミルガズィアさんは神妙な面持ちで口を開く。

そこから紡ぎ出されたのは絶望的な言葉だった。



「あの娘は自ら無限空間へと飛び込んだのだ。この空間とは別の場所へとな」

「だ、だってココって魔族や竜族ですら迷うような場所なんでしょっ!?」

「そうだ」

「……人の身で迷えば一生帰れないって……」



ここに来る途中、ミルガズィアさんが言っていた。

それをユウが聞いてなかったはずがない。

ぼーっとしているように見えて、ユウは意外と(したた)かだ。

そりゃ、たまに抜けてる所もあるけど……。

でも話しを聞いてなかっただなんて有り得ない。



「おそらくはお前の事を想っての事だろう。その証拠に、あの娘はお前を頼むと我らに言った」

「そんなっ!? だからって……」

「くくっ、馬鹿なお嬢ちゃんだ」

「……ガーヴっ!」

「折角オレが可愛がってやろうって言うのに、自ら死にに行っちまうんだからなぁ?」



嘲りの笑みを浮かべてガーヴはコチラを見下す。



「さて、あのお嬢ちゃんを殺す手間は省けた。となると残りはお前らだ」

「っく……」



気に押され、呻いたあたしは───しかし。

その『気』に飲まれないようにガーヴを睨みつけ、言った。



「やっぱり一目惚れってのは嘘だったのね……」

「嘘じゃねーさ」

「じゃあなんで」

「殺そうとするのかってか? 言ったろ? オレの物にならないなら死んでもらうとな」

「やっぱりアンタなんか人間じゃないわ」

「どっちでもいいさ、そんな事。あのお嬢ちゃんが死んだ事に代わりねぇからな」

「この……っ!」



ギリッと奥歯を噛み締め、手を握りしめる。

───何で。

何でこんな奴をユウは……───。



「さて……無駄話はそこまでにして、そろそろ始めよーか?」



野太い笑みで言ったガーヴ。

それに答えたのは、今まで黙って事の成り行きを見ていたアクア婆ちゃんだった。



「年寄りの出番かのぉ?」



婆ちゃんは、あたし達の前へ出ると誰にともなく語りかける。



「生を求める者と滅びを求める者。所詮、共には歩めぬ者同士……」



そして、アクア婆ちゃんはあたし達を振り返ると、笑顔で言った。



「さて、お別れかのぉ」



その言葉が合図だったかのように、ミルガズィアさんが印を組み、あたしとマルチナに向かって術を解き放つ。



『きゃあぁあっ!?』



強制的にその場を離れさせられるあたし達。

隣でマルチナが騒いでいたが、あたしの耳にはアクア婆ちゃんの「正直に生きなされ」と言う言葉しか入って来なかった。



───自分に正直に。



それが何を意味するのか。

その時のあたしには分からなくて、でも別れの時が来た事だけは理解できて。

あたしは声の限りに、婆ちゃんの事を呼んでいた。

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