一瞬、何が起きたのか分からなかった。
「御武運を……リナさん」
コチラを振り向き、微笑みを浮かべたユウは迷う事無く後ろへ地を蹴り、そして。
「ユウっ!?」
あたしが叫んだ時には、既にユウの姿は無かった。
「……ちょ、一体どうなってんのよっ!?」
何が起きたのか分からず、慌てて隣を仰ぎ見たあたしに、ミルガズィアさんは神妙な面持ちで口を開く。
そこから紡ぎ出されたのは絶望的な言葉だった。
「あの娘は自ら無限空間へと飛び込んだのだ。この空間とは別の場所へとな」
「だ、だってココって魔族や竜族ですら迷うような場所なんでしょっ!?」
「そうだ」
「……人の身で迷えば一生帰れないって……」
ここに来る途中、ミルガズィアさんが言っていた。
それをユウが聞いてなかったはずがない。
ぼーっとしているように見えて、ユウは意外と強かだ。
そりゃ、たまに抜けてる所もあるけど……。
でも話しを聞いてなかっただなんて有り得ない。
「おそらくはお前の事を想っての事だろう。その証拠に、あの娘はお前を頼むと我らに言った」
「そんなっ!? だからって……」
「くくっ、馬鹿なお嬢ちゃんだ」
「……ガーヴっ!」
「折角オレが可愛がってやろうって言うのに、自ら死にに行っちまうんだからなぁ?」
嘲りの笑みを浮かべてガーヴはコチラを見下す。
「さて、あのお嬢ちゃんを殺す手間は省けた。となると残りはお前らだ」
「っく……」
気に押され、呻いたあたしは───しかし。
その『気』に飲まれないようにガーヴを睨みつけ、言った。
「やっぱり一目惚れってのは嘘だったのね……」
「嘘じゃねーさ」
「じゃあなんで」
「殺そうとするのかってか? 言ったろ? オレの物にならないなら死んでもらうとな」
「やっぱりアンタなんか人間じゃないわ」
「どっちでもいいさ、そんな事。あのお嬢ちゃんが死んだ事に代わりねぇからな」
「この……っ!」
ギリッと奥歯を噛み締め、手を握りしめる。
───何で。
何でこんな奴をユウは……───。
「さて……無駄話はそこまでにして、そろそろ始めよーか?」
野太い笑みで言ったガーヴ。
それに答えたのは、今まで黙って事の成り行きを見ていたアクア婆ちゃんだった。
「年寄りの出番かのぉ?」
婆ちゃんは、あたし達の前へ出ると誰にともなく語りかける。
「生を求める者と滅びを求める者。所詮、共には歩めぬ者同士……」
そして、アクア婆ちゃんはあたし達を振り返ると、笑顔で言った。
「さて、お別れかのぉ」
その言葉が合図だったかのように、ミルガズィアさんが印を組み、あたしとマルチナに向かって術を解き放つ。
『きゃあぁあっ!?』
強制的にその場を離れさせられるあたし達。
隣でマルチナが騒いでいたが、あたしの耳にはアクア婆ちゃんの「正直に生きなされ」と言う言葉しか入って来なかった。
───自分に正直に。
それが何を意味するのか。
その時のあたしには分からなくて、でも別れの時が来た事だけは理解できて。
あたしは声の限りに、婆ちゃんの事を呼んでいた。
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