それからいくばくもせず、ぽんっと辺りの景色がひらけたと同時に、あたしは重力に逆らえず落ちていた。
そして、
ガツンっ!
とゼルの頭に直撃。
「痛ったぁい……」
「何というマヌケな再登場なんだ……」
うずくまり、頭を押さえるあたしの後ろでゼルが呆れた声を出すが、あたしだって好き好んでこんな登場をした訳じゃない。
が、今はそれを口論している暇は無かった。
何かが、あたしに向かって飛んで来たのだ。
「っ!?」
驚き、息を飲んだあたしの目の前にそれが迫った次の瞬間。
「霊王結魔弾!」
アメリアの声が響き、続いて聞こえる鈍い音。
どがっ!
と言うその音と共に何か───赤い球体は、あたしの前から消え去っていた。
隣を見ればアメリアが喜々として佇んでいる。
「これこそ、まさしく正義の拳! この世に悪を振り撒く魔族よ、今こそわたしの正義の怒り、その身に受けるがいいっ! とぁーっ!!」
正義の口上を述べ、尚も拳を『それ』に叩きつけるアメリア。
後ろでゼルが脱力感丸出しで、疲れたように呟いた。
「自分の手に魔力を込めているとは言え、魔族を素手でどつきまわすとは……さすがアメリア」
確かに非常識である。
……って……ん?
「魔族? アレ? あーんな変な奴相手に、何手間取ってんのよっ!?」
「実はかくかくしかじかで……」
ガウリイ曰く、赤い球体ともう一体いる灰色の球体。
赤色が攻撃、灰色の方が防御と別れているものの、その色と性質は入れ代わる事が出来るらしく、手間取っていたらしい。
「だったら2つ同時に攻撃しろっ!」
「簡単に言うな! ……だが一利ある」
あたしの言葉にゼルが反応し、さっそく術を唱えた。
「魔皇霊斬!」
剣に魔力を込めるその術は、ゼルの言葉と共に魔族を倒す力を宿す。
それを構え、ゼルはアメリアの攻撃に合わせて、灰色の球体へと切り掛かった。
───そして。
ごがぁあんっ!
アメリアとゼルの同時攻撃に、赤と灰色の球体は爆発を巻き起こした。
土煙が晴れたそこには、すっくと佇む二人の姿。
「ビクトリーっ!」
コチラに向かってVサインを見せるアメリアにホッとしたのも束の間───。
突如現れた気配と殺気に、あたしは思わず叫んでいた。
「アメリア! ゼルっ!」
その声に反応するようにアメリアが後ろを振り向く。
そこに居たのは魔族───セイグラム!
「アメリアっ!!」
「きゃああっ!?」
警戒を呼び掛けたあたしの声。
だがそれは既に遅く、アメリアはセイグラムの攻撃によって吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられた。
「アメリアっ!!」
慌てて彼女の元に駆け寄れば、アメリアの周りにはおびただしい量の血が流れ出している。
「深手だわっ!」
「くそっ! アメリアっ!」
「だめ、動かさないで!」
言ってあたしは治療の術を唱える───が。
治療は復活と違い、本人の回復力を高め傷を癒す術。
このままだと回復よりも先にアメリアの体力が尽きるのは目に見えている。
「駄目だ、治療程度じゃどうしようもない……」
「ユウやシルフィールが居てくれたら……」
「そうだ! ユウはどうしたっ!?」
「……っ、そ……れは……」
あたしの呟きに、ゼルが今気付いたとばかりに辺りを見回す。
だが、そこに彼女が居るはずが無い。
どう説明しようかと言葉に詰まったあたしに、届いたのは耳障りな笑い声。
「フッフッフッフッフッ……」
おそらく、あたし達の負の感情を食べているのだろう。
怒りや悲しみを。
笑うセイグラムをキッと睨み付けた、その瞬間。
ザッと足音が聞こえ、隣を見上げたあたしが見たもの。
「ミルガズィアさん……」
そう。
そこには異空間で別れたはずの彼の姿があった。
「代わろう。お前の手には負えんだろう」
言って彼はアメリアに手をかざす。
そんなミルガズィアさんに、あたしは尋ねた。
「アクア婆ちゃんは……」
「………………」
しかし、返ってきたのは無言の答え。
つまり、お婆ちゃんはもう……。
あたしはぎゅっと手を握り締めると、「アメリアを頼むわ」という言葉を残し、立ち上がった。
そしてセイグラムの元へと歩み寄る。
後ろであたしを呼ぶガウリイの声が聞こえたが、今は答えていられなかった。
あたしは既に増幅の呪文を唱えているのだ。
あたしが紡ぎ出す『混沌の言葉』に呼応し、四つの呪符が淡い光を放つ。
それに気付いているのか、いないのか。
セイグラムは笑みさえ浮かべて自信満々に述べた。
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