「ふっ、しかし流石はゼロスってとこだな。オレの今の一撃を食らって、まだきっちり生きてやがる」
「とは言え、これだけ力を失うと、回復には時間がかかりそうですねぇ……」
「そういうこった」
言ってガーヴはいつかの様にゼロスの胸倉を掴む。
そして自らの元へと引き寄せると、問いただした。
「ならば、そろそろ観念して吐いたらどうだ? 冥王の陰険野郎が、一体何を企んでるのか」
「……それは……」
「それはっ!?」
なかなか答えないゼロス。
そんな彼に焦れ、ガーヴはグラグラとゼロスの体を揺さ振り息巻いた。
「ゼロスっ!!」
思わず彼の名を呼んだあたしを無視し、怒りの形相で食ってかかるガーヴ。
「吐けよ、ぁあっ!?」
しかし。
ゼロスは、やっぱりゼロスだった。
無言のままいつもの様にニッコリ笑い───そして。
「それは秘密です♪」
言ったその途端。
ゼロスの姿が、すぅ───っと掻き消える。
「何っ!?」
一瞬、何が起こったのか理解できず呆然とするあたし。
いや……あたし達。
「逃げちまった?」
「くぁ〜っ! この期に及んで、どこまで無責任な奴のよっ!!」
ガウリイの呟きに正気を取り戻したあたしは、虚空を見つめて呆れた。
食えない奴だと思ってたし、あたし達を助けてくれていたのも命令で仕方なくと言うのも分かっていた。
だけど、この局面であっさり逃げるか普通っ!?
「くっ、ふっはっはっはっはっ! 所詮魔族なんてこんなものよ。己の身を守る為なら仲間の事なんか知らねぇってよ」
叫ぶあたしとは対称的に、不敵な笑みを浮かべたガーヴは「さてと」と前置きしてから、一歩、また一歩とこちらに向かって歩みを進めてくる。
嫌でもプレッシャーがあたしを襲う。
「結局冥王の企みとやらが何だったかは分からず終いだったが、いずれにせよ奴の計画は潰さなきゃならん」
「っ……!」
異界黙示録の知識を得た今、冥王の企みは何となく予想が出来た。
望んだ事ではないとは言え、その計画にはあたしが絡んでいる。
あたしを消してしまえば冥王の計画は確実に潰える。
本当はその方が良いのかもしれない。
───が、でもだからって、素直にやられるあたしじゃない。
あたしは身構え、術を唱えようとした───その時。
「げほっ……」
あたしは咳込み、堪らず地に膝をついた。
「ごほごほっ───……!?」
なかなか治まらない咳。
やがて熱い物が込み上げ、あたしは血を吐いた。
「リナっ!?」
セイグラムを倒すのに使った神滅斬の所為で体力が回復していない……。
心配そうに声を上げたガウリイに答えることも出来ず、あたしはただ目の前で立ち止まったガーヴを見上げた。
「何より今まで散々オレ達を引っ掻き回してくれた礼もある。悪いが死んでもらうぜっ!!」
「く……っ!!」
息を呑み、ただ目の前の敵を見上げる事しか出来ない……と、その時。
「そうはさせん」
「っ!?」
光の剣を手に、あたしの前に立ったガウリイは、ガーヴを見据えて言った。
それはいつもの聞きなれた言葉。
「オレはこいつの保護者でね。黙って見てる訳にはいかん」
「同じくだ」
今度はゼルがガウリイの隣に立ち、ガーヴを睨みつける。
「おれの方は仲間だがな。いずれにせよ、はいそうですかと見過ごす訳にはいかん。生憎おれはゼロスと違って人間なんでね」
「ガウリイ、ゼル……」
言って身構える彼らを見て、あたしは嬉しさに二人の名を呼んだ。
だが───。
「ふっふっふっ、くだらねぇ。テメェの命まで賭けて、勝てっこねぇ戦いをやる事もねぇだろ」
ガーヴは嘲笑うかのように二人を見下した。
しかし、ゼルは怯む事なく啖呵を切る。
「黙れ。これはおれ達が生きる為の戦いだ。そう易々とやられてたまるものかっ!」
「ふっ、生きる為か……成る程。冥王の企みをぶっ潰すのがオレ自身の生きる為なら、オレとお前らは似てるのかもなぁ」
自嘲の笑みを浮かべたガーヴと真っ正面から対峙したガウリイ達の間に風が吹いた。
チャキ……と剣を構えるガーヴ。
それを見たゼルは、視線はガーヴから外さず、あたしの元に近づくと、ボソリと呟く。
「リナ。あぁは言ったものの、奴はおれ達がまともにやって勝てる相手じゃない」
「ゼル……」
「今はセイグラムを倒したお前のあの技に賭けるしかない」
「オレとゼルで時間を稼いでる間に、早いとこ復活してくれよな」
「ガウリイ……」
頼みの綱はあたしの神滅斬。
その為にも。
早く体力を回復させなくては───!!
あとがき
担い手───生死を賭けた戦い。
背負うのは期待と焦りと……。
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