あの後───。
冥王がガウリイさんを連れて姿を消した後。
私達は近くの町の酒場へと入り、テーブルを囲んでいた。
「するってぇと何か? その冥王フィブリゾって奴が、ガウリイを攫っちまったって訳か」
説明を聞き終えたザングルスさんが、誰にともなく尋ねる。
「あぁ……その上あの通り操り人形にされてしまった様だな」
「人質にとっただけでなく、ガウリイさんの正義に燃える心まで操るだなんて、あのフィブリゾってのはどこまで卑怯なのよっ!!」
ばんっ!
と、テーブルを叩き、怒りをあらわにするアメリアさん。
取りあえず、ガウリイさんに正義に燃える心があったかは置いといて。
このまま彼が冥王に操られてしまうとなると、迂闊に手出しは出来なくなってくる。
「ガウリイ様……」
「しかし何でガウリイを人質になんか捕ったんだ? 相手がそれ程の相手なら、お前達の命を奪うのなんぞ容易い事だろうに」
「それは……」
「……アイツの狙いはこのあたし」
言葉に詰まったアメリアさんに代わり、答えたのはリナさんだった。
「あたしに『ある事』をさせたがってるのよ」
「ガウリイの命と引き換えにしてか?」
「……一つ言えるのは、フィブリゾの思い通りになるのは気にくわないって事。別に無理してついて来なくても良いのよ? ザングルスは事件の当事者って訳じゃないんだから」
「ふん、当然お前さん方と一緒に行くつもりはないさ。俺は一人で追わせてもらう」
言ってザングルスさんは席を立つ。
それに驚きの声を上げたのはアメリアさんだった。
「ぇえっ!? わたし達と一緒に戦ってくれるんじゃないんですか?」
「俺はもう一度ガウリイと決着をつける。それを邪魔する奴は斬る……ただそれだけさ。それに俺は団体行動ってヤツが苦手でね、勝手にやらせてもらうさ」
帽子に手を当て一瞬だけ持ち上げ掲げるのを挨拶代わりに、ザングルスさんは踵を返すと、私達の前から去って行った。
そんな彼の後ろ姿を見つめ、立ち上がったマルチナさんはうっとりと呟く。
「はぁ……ニヒルでカッコイイ人! あのちょっと折れ曲がった帽子といい、マントも良いセンスしてるし」
その頬は、ほんのりと赤みを帯びていたりする。
しかし、次の瞬間には彼女は首を振り、自分を叱咤した。
「はっ! いけないいけない! わたしはもう誰も信じないって誓ったはずでしょ! 今はただゾアメルグスター様の復讐を遂げる事だけを考えるのよマルチナ! ……で、でも、でもでもっ!」
「……前から思ってましたけど、あの人のセンスって……」
「ほっとけ」
何やら一人百面相をしだした彼女に、アメリアさんは額に汗を流す。
その横では、リナさんが真剣な面持ちで虚空を見つめていた。
私は何も言わず、手の中にあるカップをそっと傾ける。
全ての現実から逃避するかのように……。
目をそらすように。
白く温かい液体は、一瞬。
心も躯も温めてくれた。
あとがき
空虚。
───空っぽな日々。
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