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かつて神聖樹フラグーンが根付いていたとされる町の中心地。

そして今は冥王がいるであろうと思われる場所。

そこにやって来た私達は、不思議な建物を目にした。

いや───正確にはサイラーグに入る前から目にしていた巨大な建物。

しかし、建物であるはずのそれは、入口らしきものが見当たらなかった。



「来いって言っといて入口が無いってのはどーいう事な訳?」

「と、それを私に言われましても……」



イライラを感じさせる口調でリナさんは私を睨む。

が、睨まれたところで私にはどうする事も……まぁ、出来なくもないけど。

けれど、難しいのは確かである。

そんな事を思う内にも、リナさんは怒りを爆発させた。



「だっておかしいじゃない! あたしはフィブリゾに呼ばれてここまで来たのよっ!? 歓迎しろとは言わないけど、ここまで来たあたしに対する誠意ってもんがあっても良いんじゃないっ!? 誠意ってもんが!」

「魔族に誠意を求める方が無茶ですよ……」

「何にしても、これじゃあどこから入ればいいのか分かりませんね。隠し扉の類いも無さそうですし……」



呆れる私とは異なり、シルフィールさんは建物を見回しながら冷静に分析する。

それに対し、私は肩を竦めて言った。



「案外、作り忘れたのかもしれませんね」

「は?」

「魔族に扉的概念て無いでしょうから」



言って私は神出鬼没の彼を思い出す。

鍵がかかっていようと、空間を渡り、平気で部屋にやって来た彼の事を。



「リナさーん!」



そんな思いに気を取られていると、頭上からアメリアさんの声が降ってきた。

アメリアさんとゼルガディスさんには上からの詮索をお願いしていたのだが……。

彼女は術を解き、地に舞い降りると困ったように言う。



浮遊(レビテーション)で上からも見てみましたけど、入口は見当たらないみたいです」

「どうする?」

「どーもこーもないわ。入口がないなら作るまでっ!」



続けて地上に降り立ったゼルガディスさんに尋ねられ、リナさんはきっぱりとした口調で答えた。

そして続けざまに術を唱え───。



振動弾(ダム・ブラス)っ!!」



解き放たれたそれは壁にぶつかり───しかし。

砕け散ったのは壁ではなく、振動弾(ダム・ブラス)の方だった。



「どうやら何かのシールドが張ってあるみたいだな」

「だったらそのシールドごとぶっ飛ばしてやるわよっ!」



息巻きリナさんが唱え始めたのは竜破斬(ドラグ・スレイブ)

確かにこれなら何か進展もありそうだけど……。



「黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの……」



大丈夫なんだろうか……その、威力的に。

まさか冥王の造った建物が吹き飛ぶとは思わないけど、万が一という事もある。

───しかし、そんな私の考えは杞憂に終わった。

何故なら、彼女が術を唱え始めると、

……どごんっ……

と重く鈍い音を立て、目の前の壁の一部が消え去ってしまったのだ。



「は?」



呆気に取られ、術を中断するリナさん。

外から見た限りでは闇が立ちはだかり、中の様子は全く窺えない。

が、入口であることは間違いなさそうである。



「観念して自分から入口を作ったみたいだな」

「よっしゃ! それなら一気に踏み込むわよ!」



切り替え早く、言ってリナさんは駆けだした。

それに続こうとした、その途端。



「……は!?」



建物へ入って行ったリナさんが、何故か外へと飛び出してくる。



「リナさん? どうしたんですか? 中で何か……」

「あれ? 今ちゃんと入ったはずなんだけど……」



シルフィールさんの問いかけに首を傾げつつ、彼女は再び───否。

先程以上に勢いをつけて、入口に向かって駆け出した。



「ふぬぅ、でぇやぁぁぁあっ!」



そして───。

どて。

何故か私達の前に勢いよくスライディング。



「何やってんの、あんた」

「リナさん! 遊んでる場合じゃありませんよ!!」



マルチナさんからは冷たいツッコミが、アメリアさんからは怒りの声がリナさんに投げ掛けられる。

それに対しリナさんは、唸る様に「そうじゃないのよ」と呟いた。



「どうしても外に出てきちゃうの。嘘だと思うなら、あんたやってみなさいよ」

「そんなことが……」



訝りながらアメリアさんは闇が広がる入口へと手を伸ばし───。



「ぁあっ!? これ、どうなってるんですかぁ?」



闇へくぐらせた分だけ、腕がこちらへ向かって突き出されている。

どうやら中の空間がねじれて、何をやっても外に出てしまうようである。



「どうあっても、あたし達を中に入れたくないみたいね……」

「まだ歓迎の準備でもしてるんじゃないですか? 紙の花とか輪っかの鎖とか……」

「ユウ、あんた適当に言ってるでしょ」

「まぁ、本気じゃ無いことは確かです」

「たく、しゃーない。別の場所探すわよ!」



呆れつつ、リナさんが歩きだす。

───が。

その行く手には、いつの間にか町の人々が佇んでいた。

見ればその人々の瞳に光は無く、冥王に操られている事が窺える。

それを見てとると、リナさんは途端に踵を返した。



「……やーめた。あたし帰るわ」

「ぇえっ!? どうしてですかっ?」

「いいのいいの。さ、行くわよ」

「リナさんっ!」



あっさりと扉探索を放棄したリナさんに置いていかれまいと、アメリアさんが慌ててついて行く。

おそらくリナさんには何か作戦があるのだろう。

ゼルガディスさんやシルフィールさんはそれが分かってか、何も言わずにリナさんの後を追う。

そして私もその後に続こうと足を踏み出し、



「ぇ……!?」



いきなりフードを捕まれ、ぐいっと後ろに引っ張られた。

私は(たま)らず後退し───……。

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