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気づけばそこは、薄暗い廊下が続く場所だった。

キョロキョロと辺りを見回してみるが、リナさん達がいる気配は無い。



「……えーと……?」



さらに、入口らしきものも見当たらない。

廊下が続いているということは建物の中だとは思うのだが……。

建物といえば、先程目にしていた冥王の神殿が真っ先に思い浮かぶ。

でも何故───?

ここが仮に神殿なのだとしたら、何故リナさんではなく、私がここにいるのか。



「手違い?」

「……いえ、間違いではありませんよ」



私の呟きに、後ろから答えが返ってくる。

…………………………。

って言うか、今の声って……。



「幻聴……?」



そう思いつつ振り向き見れば、見覚えのある姿がそこにあった。

人当たりの良さそうな笑顔に、黒い神官服。

宵闇色の髪は肩口で切りそろえられ、手には赤い宝玉のついた杖。

その姿に固まる私をお構いなしに、その人物は挨拶までし始めた。



「お久しぶりです、ユウさん。お元気でしたか?」

「…………ゼロスの幻覚がしゃべってる」

「………………え?」



その言葉に、今度はその人物───ゼロスが固る。

そう、そこに佇んでいるのは紛れもなく、正真正銘ゼロスの姿。

……何と言うか。



「……どこまで重症なの私……」

「あの……?」



戸惑う幻覚を無視し、私は深い溜め息を吐いた。

竜たちの峰(ドラゴンズ・ピーク)での一件後。

私はアメリアさん達から、ゼロスが深手を負い、そこから姿を消した事を聞かされた。

それ以降、冥王が現れた時にも姿を見せず───。



「ぇ、ちょっと……ユウさん?」

「それにしても良く出来た幻ね」



本当に、何から何まで良く似ている。

仕草や表情まで。

これならば本物と間違ってしまっても……。



「……あの、幻じゃないんですけど……」





……………………。





「幻じゃない?」

「はい」



そう聞き返すと、ゼロスは苦く笑いながら頬を掻いた。

私は信じられない思いから目の前のゼロスに、そっと手を伸ばし、そして───。



「えい。」

「ちょ、ユウはんっ!? なにふるんへふは!」



いきなり頬を摘んだ私に抗議の声を上げる彼。

なるほど。

確かに指先には感触がある。

ゼロスが言うように、どうやら本当に幻の類いではないらしい。



でもそうなると……。

私はニッコリと満面の笑みを浮かべると、更に指に力を込め、頬を横に引っ張った。



「何って、今まで何の連絡も寄越さないで、いけしゃあしゃあと呑気に私の目の前に現れたゼロスの頬を摘んでるんですよ」

「も、もひもひ……?」

「よくもまあ、臆面もなく私の前に出て来れましたねぇ?」

「いや、はからほれは……」



本気で困った顔をするゼロス。

───……わかってる。

出てきたくても出てこれなかったのは……。



「なんてね……」



冗談よ。

そう言って私は困惑しているゼロスから手を離し、くるりと背を向けた。

これ以上、ゼロスの顔を見ていたら、それこそ冗談では済まされなくなりそうで。

涙が……込み上げてきそうで───。



「……ユウ……さん?」

「………………」

「……あの……」

「………………」



背中越しにかけられる戸惑いを含んだ声。

それに気づいていて尚、私は沈黙を守りながら歩き出した。



「ユウさん……」

「……………………」

「もしかして……」



そんな私から何かを察したのか。

ゼロスは軽鴨の親子よろしくくっついて来て、



「もしかして、僕に会いたかったんですか?」



そう、問い掛けてきた。



「会いたいと思ってくれてたんですか?」



躊躇いがちにかけられた言葉。

けれどそこには確信と、何より嬉々としたものが感じ取れる。

それを聞いて私の足が、ピタリと止まった。



「ユウさん?」



……そんなの。



「ゼロスの自惚れ屋」

「ぅぐっ」

「会いたかったって?」

「……や、あの……」

「私が?」

「えっと……」

「ゼロスに?」

「す、すみません。調子に乗りました」



───……そんなの。



「当たり前じゃない」

「冗談で……え?」



思ってた。

心から、心から。

「アイタイ」と。

そう……思っていた───。

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