「あの……えっと……そう、ですか」
私が答えると、ゼロスは小さく呟いた。
そんな彼をチラリと盗み見れば、何だか嬉しそうな、ともすれば幸せそうな笑顔を浮かべていて───。
それを目にして可愛いと思ってしまった私は末期だろうか。
「…………」
と言うか……なんか、くやしい。
何だろう。
このえも言われぬ敗北感は。
………………。
うん。
まぁ、今は取りあえず置いておこう。
差し当たってすべき事は他にある。
そう無理やり理由付け、私は空気を一新するように、後ろの彼に尋ねた。
「……ところで」
「はい?」
「ここは冥王の神殿って事で良いの?」
「えぇ、冥王様がユウさんにお尋ねしたい事があるそうで」
…………なるほど。
それでリナさんではなく、私がここに連れ込まれたって訳か。
それにしても……。
「聞きたい事って?」
「さぁ? そこまでは。僕はユウさんを迎えに行ってこいと言われただけですし」
「ふーん……」
ゼロスの言うことに嘘は無い。
おそらく彼は知らない。
でも……想像はつく。
今、この状況で冥王が私に聞きたいこと。
それは……。
───……それは。
「………………」
「ユウさん? どうかしたんですか?」
「んー……別に?」
急に黙った私を不審に思ったのか、ゼロスはこちらを窺うように問いかけてきた。
それに対し、私はあえてとぼけた返事を返す。
それでゼロスが納得するとは思わないが、わざわざ心配をかける事も無い。
案の条、ゼロスは面白くなさそうな顔をした。
───が、彼に突っ込まれる前にコチラから会話をそらしてやる。
「それより、ゼロスは私を迎えに来てくれたのよね?」
「え? あぁ、はい」
「それじゃあ、あんまり冥王を待たせるのも悪いし、行きましょうか」
「…………はい」
先程の不満からか若干反応が遅かったが、それでもゼロスは冥王からの言いつけを守るべく首を縦に振った。
そしてそのまま私の前を歩き始め───。
「って、歩いて行くの?」
彼なら空間移動で一瞬にして冥王の元に行けるのに。
置いていかれないように、小走りで彼の後を追いかけつつも尋ねると、ゼロスは振り向きニッコリと笑う。
「久しぶりにユウさんとのんびりするのも良いかと思いまして」
「……いや、冥王待たせてるんでしょ?」
「………………」
「………………うん、歩いて行こうか」
無言の笑顔が恐くて、私は思わず承諾した。
何だか妙に押しが強いけど本当に本物なんだろうか……?
そんなことを思いながら彼の隣を歩いていると、ゼロスはおもむろに口を開く。
「こうしてユウさんと二人きりで歩くのも、久しぶりですね」
「…………そう、ね」
一体いつ振りだろうか……。
何だかずっとずっと前だったような気がする。
「どうせならもっと景色の良い所をご一緒したかったですけど」
「私としては香茶でも飲みながらゆっくりする方が良いかな」
「そんなだからユウさん体力無いんですよ」
「……うるさい」
そんな他愛の無い会話をしながら、代わり映えのしない通路を歩き続ける。
そうしてどれ程の時間を共有しただろうか。
延々と続いていた通路にも、ようやく終わりがやって来た。
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