「それで、どうなの?」
「どうと言われても……その質問には、やっぱりしがないパシリ巫女としか言いようが無いですね。『ただ』かどうかは他の方の判断にお任せしますよ」
「……ふーん……ま、ぼくとしてはお姉ちゃんが重破斬が使えるかどうかが分かればそれで良いんだけどね」
言って冥王は、いかにもな様子で笑みを浮かべた。
───重破斬。
金色の魔王の力を源にする禁断の魔法。
「まぁ、あれだけの力を使いこなせるお姉ちゃんが、重破斬を使えないなんて事は無いと思うけど」
「………………」
「使えるんでしょ? あの方の術を、重破斬を」
───……確かに。
試したことは無いが、理論の上では理解している。
おそらく使える……が、馬鹿正直に答える必要もない。
冥王は私が重破斬を使えるかもしれないと打診しているだけで、確信はしていないのだから。
どう答えようか迷い、私は何とは無しにゼロスを見た。
彼の視線は依然として私からそらされず、紫の瞳が真っ直ぐ注がれている。
「………………」
私はそれに応える事なく一つ息を吐き出すと、ゆっくりと冥王を見上げ、そして答えた。
「……使える」
「っ!?」
「───として、どうするつもりなんですか?」
それを聞いた彼は、ニッコリと満面の笑みを浮かべて言う。
「ふふっ、そんなこと言って本当は全て分かってるんでしょ? ぼく等魔族の望みを。全ての理を」
魔族の望み……。
世界と共に滅ぶ事。
「だから、お姉ちゃんには重破斬を暴走させてもらおうと思って」
「……簡単に言いますね」
「簡単な事さ。術を制御するよりも、ね」
「……それで、私がその話に簡単に応じるとでも? お断りですよ、そんな事は」
「ま、だろうね」
言って冥王はあっさりと頷いた。
けれど、次の瞬間。
「そう言えば……」
さも今思い出したとでも言うように、彼はポンと手を打ち、嫌な笑みを浮かべてみせる。
「お姉ちゃんはゼロスと仲が良いみたいだね」
それはまるで、お笑いぐさだとでも言うように。
浅はかで、くだらないとでも言うように。
冥王は嗤って言う。
「どうせリナ=インバースが来るまで暇だし……ゼロス。ユウお姉ちゃんを殺してよ」
───と。
「……は?」
お使いに行ってきてというような気軽さで言った冥王に、ゼロスは何とも間の抜けた返事をした。
それに対し冥王は、笑顔で命令を下す。
「聞こえなかったの? そこにいる人間を殺せって言ったんだよ」
「…………」
「重破斬が使えるなら、世界を滅ぼすのはリナ=インバースじゃなくても良いからね」
なるほど。
そういう事か……。
素直に従うならば良し。
けれどそうじゃなかった場合はゼロスと敵対させる。
「お姉ちゃん、気をつけた方が良いよ。怪我をしているとは言え、ゼロスはそこそこ強いから。小手先だけの魔術じゃゼロスに勝てないよ」
全ては冥王の筋書き通り。
小手先の魔術は通じないという事は、大技を使わなければならない。
つまり冥王は私とゼロスを相対させ、私に重破斬を使わせようとしているのだ。
もしそれで使わなかったとしても……。
そしてもし、私が死んだとしても、リナさんがいる。
いわゆる余興の一つという事なのだろう。
まったく、遊び感覚で勝手に人の命を賭けないでほしい。
魔竜王が言ってた通り、『陰険』そのものである。
ま……どの道、今の私には重破斬は使えないから世界が滅ぶ事はないのだけれど。
───さて。
となると残る問題は、あと一つ。
「それで、ゼロスはどうするの?」
そうゼロスに問い掛けると、命令が絶対であるはずの彼は、珍しく迷いを見せた。
「…………僕は…………」
うつ向き、呟くゼロス。
私は目を瞑り、流れに身を任せる。
全ては彼の出かた次第。
「……僕は……」
───僕は……っ。
そして次の瞬間。
何かをふっ切った様な声に続き、顔の横に何かを突き付けられたような感覚が私を襲った。
私はそっと目を開け、視線を顔の横に流す。
チラリと見ると、朱い宝玉の付いた杖の先がそこにはあった。
杖の先───それは後ろにいるゼロスが突き付けているもの。
「……それが貴方の答え?」
目の前の冥王を見据えながら、私は静かに後ろのゼロスに問い掛ける。
「……はい……」
肯定を示したその声に───私は、そっと息をついた。
それが貴方の答えなら、私はそれに応えるまで。
───そして、今ここに。
一世一代の茶番が始まる。
あとがき
茶番。
バカバカしい事。
バカバカしい行い。
その先にあるものは───……?
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